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2012年5月22日 (火)

『フロント・ページ』仕事中毒の人ほど必見の傑作コメディ。

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 さあ、今回は私の大好きな大好きな名優、ジャック・レモンと、尊敬する大監督ビリー・ワイルダーの黄金コンビによる1974年の傑作コメディをご紹介しますね。
 ただしまたまた長いですよ。知っていると面白さが倍増するネタがいっぱいあるんで。
 でももちろん、ネタバレだけはしていませんからご安心を。

 さあ、お覚悟くださいね。…なんです?あまり長いと寝オチしてしまう?
 じゃあ、そこでお休みください。私はいつでもいつまでもここでお目覚めを待ってますよ。
 

 
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 お話の舞台は、悪名高い禁酒法もその撤廃が近い1926年初夏のシカゴ。
 もう、街全体が戦場かと思うほどに毎日ギャング同士の抗争で血の雨が降っている。
 ジャック・レモン演じる主人公のヒルディは、そんなシカゴで、生き馬の目を抜く新聞業界で五本の指に入るほど腕ききの事件記者。

 しかし年がら年中、秒単位の仕事に追い回され、切れ者だが底意地の悪い編集長にいいようにこき使われて、それがために過去に何度も結婚に失敗。いい歳なのに恋する事も許されない。
 さすがに嫌気がさした彼は、ついに一念発起して記者稼業から足を洗って、新しい恋人と所帯を持つためシカゴを離れようと決心した。

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 でも敏腕の“コマ”である、彼を失いたくない、ウォルター・マッソー演じる編集長のウォルターは、あの手この手で彼をひきとめようと…

 ───いかにも時代を匂わせるアップテンポのディキシーランドジャズに乗って、最初に出て来るのは主人公たちが働く新聞社『Chicago Examiner(シカゴ・エグザミナー)』のロゴ。でも、なぜか裏返し。
 これ、新聞の表紙に使われる“版”の部品。だから裏返しなんですね。
 冒頭シーンは、そうやってスピード感たっぷりにその日の新聞ができあがるまでのプロセスがオープニングになってる。
 巧いですね。時間に追われ追われ、まるで人間が印刷機の一部みたいに見えてくる。モダンタイムスを思わせる演出。

 この時代がどんな時代か、舞台がどんな場所かを台詞や説明文でなく、軽妙なテンポで仕事の動作として見せていく一種のパントマイムになっている。

 主演のジャック・レモン、そしてウォルター・マッソーの名のテロップを出しつつ、次に職人は新聞の見出しになる『COP KILLER S...』の活字をひょいひょいと拾っていくところ、いかにも職人の早業。でも、なんと文字の意味するところは『警官殺し(コップ・キラー)…』。

 それに続けてリードになる文が組み立てかけの活字のカタマリにかぶる。
 作品のタイトル、『フロント・ページ』。つまり『第一面』ですね。なんて粋な演出でしょうか。
 いまではもう活字を拾う新聞社の印刷部署なんてありませんから、この部分だけでも重要無形文化財的な面白さ。

 次にバイザーをかぶったおっさんがタイプライターを打ってるようなカットが入りますが、これも珍しいもの。
 ライノタイプいいましてね、タイプみたいに打ち込むと、一行ずつ鉛の活字がポイポイ、と出来上がるんですね。
 なにせスピード重視の新聞発行、見出し程度ならともかくも、本文となるといちいち一文字ずつは拾ってられないんで、英語圏にはこんな機械があったんですね。(ただし日本は違います。ひと文字ひと文字、ふりがなみたいに小さな文字も全部棚から拾ってくる方式だったんですよ。)

 さあ、そして文章としてセットになれば、それらを新聞らしい体裁にレイアウトするための木型にはめ込んでいく『組版(くみはん)』をしながら、同時に輪転機にかけられる印刷用紙が運ばれる。いずれもが美しい動作の流れ作業。
 試し刷りの後、輪転機にかけられてさあ、試しにもう一回転。具合を確認したらスイッチオン、本格的に1分千枚以上の高速でガンガン刷りまくる…という案配です。

 そしてあらためて刷り上がったばかりの新聞が観客の眼にさらされて───。

『1929年、6月6日』これ実は、アル・カポネがとっ捕まった次の月なんですよ。え、アル・カポネ知らない?
 シカゴは悪の巣窟状態で、そこに巣くう極悪ギャングの親玉の中の親玉、ラスボスと言う方が今はわかりやすいでしょうか。

 でも捕まったといっても、当局の追求逃れの為の自作自演というウワサもあり、いつまたギャングの抗争で血の雨が降るか…といった危なっかしい含みもあるんですね。
 そんな危ない時代に調子を合わせ、逆に血なまぐさい事件をメシのタネに心待ちにしていたのが当時のマスコミ、つまり新聞記者たち。

 記者クラブにつめる各社の記者たちは、得た情報をもとに記事を即興で仕上げて電話を使って自社へ口頭で伝えるんですが、そのやりとりの内容たるや、“クチから出るに任せる”とはこの事で、モラルも何もあったもんじゃない。
 その様子があんまり無茶苦茶で笑えるけど、一歩醒めてよく考えてみたら怖い怖い。

 しかもそのやりとりを当の犯人がアッと驚く場所に隠れてこっそり聴いている。これがビリー・ワイルダー流イタズラ心たっぷりの演出ですね。

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 この作品はフィクションではありますが、なにせ大新聞社でさえも『売れた新聞がいい新聞』な時代。
 だから真実の追求もなにもあったもんじゃない。ウォルター・マッソー編集長も、もっと文章も写真も過激に、とたきつける。
 当時は汚職まみれでない警官が珍しかったそうですし、冤罪だろうが通りすがりだろうが、とりあえず誰か捕まえとけ、みたいなノリですから、あながち全くの作り話ではなかったんでしょうね。
 このあたりは時代のまっただ中に作られ公開されていたチャップリンの映画でもさんざん登場するシチュエーションですね。

 そんな殺伐とした時代背景の中、ドタバタとせわしなく人が行き交う慌ただしい社内で、ひとり主人公のヒルディだけがふわふわ、うかれ調子のマイペースで建物内をうろついてるんですね。

 じつはお話が始まった時点で、彼はもう辞表を出したあと。で、恋人と駅で待ち合わせした上で、シカゴを旅立つチケットを懐に記者クラブに別れの挨拶に来たところから本編が始まる。

 この時間感覚の対比が絶妙。

 同時に、もしあなたが一度でも仕事を円満退社された事があったら思わずニヤつくことでしょう。
 あいも変わらず日々の雑務に追われてバタバタしてる同僚やライバルを尻目に、ザマ見ろ、オレはもう自由なんだ、という、あの妙な優越感の空気。

 ほかの記者達がポーカーで暇つぶししてる所に、別れの挨拶回りに現れたヒルディの手土産は、いろんな種類の酒、酒、酒。
 1926年ですから禁酒法はまだ生きてます。でもこの禁酒法はけったいでね、作ってはダメ、売ってはダメ、運んでもダメ。でも飲むのは罪にならないんですよ。おもしろいねえ。

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 そしてこれほど面白い舞台設定が整ったところで、ビリー・ワイルダー流の皮肉たっぷりでヒネリの効いたイタズラと、脚本のIALダイアモンドならではのウィットに富んだ会話が展開します。

 記者を辞めてせいせいしているヒルディの前に、「あなたの後釜を命じられた」と記者クラブに現れたのは、見るからに使えなさそうなへなちょこ野郎。
 編集長がそんな頼りないのを後釜にしたのも、ヒルディが黙っていられなくなる性格だと見抜いての策略で、またヒルディもその事が解っているだけに内心穏やかでない。

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 ところがそこへ、記者にとって永遠に求めてやまない『特ダネ』が自分からヒルディの元へ飛び込んできたから、さあ大変───。
 冒頭、ただひとりのんびりペースで登場したヒルディも、いつしか周りに同調し、もとのモーレツ新聞記者のペースに戻ってゆき、観ている我々もハッと気づいたときには、怒濤のドタバタ劇にすっかり巻き込まれているのです。

 お話はそんな調子ですし、とにかく見どころだらけ、伏線や仕掛けが満載なので目を放すひまさえありません。
 ビリー・ワイルダー監督のイタズラ演出を数えるのもまたツウな愉しみ方でもあります。

 最後に、そんなたくさんあるイタズラ演出のうちのひとつをご披露しますね。
 オープニング直後、がみがみ怒鳴るウォルター・マッソー演じる編集長のおケツにお陽様の光を通じて窓に貼られた社名が映り込みます。新聞社の『Chicago Examiner』の『examiner(審査官、尋問する人という意味)』だけが。

 これいうなれば、お坊さんの後頭に『ハゲ』って落書きしてるようなものなんでしょうね。

 では、また、お逢いしましょうね。ヽ(´∀`*)ノ

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