« 『WALL・E/ウォーリー』21世紀のチャップリンは鋼鉄の箱形ロボット。(加筆) | トップページ | 『フロント・ページ』仕事中毒の人ほど必見の傑作コメディ。 »

2012年4月19日 (木)

『死刑台のエレベーター』思惑のズレが人生の歯車を狂わてゆく

Gallowselevator01

 はい、みなさんこんばんわ。
 もう古い映画になりました。でも今も昔も変わらんのが、どっろどろの関係になった“男と女”の末路。しかもそれにキワキワの犯罪が絡んで、おまけに運命の悪戯が手を出すとこんなことになっていく…というのを、やんわりと真綿で首を絞めるような息詰まり方で描いた作品です。

 どうです、じれったいですか?いえいえ、見終わった後にあなた、絶対ため息つきますよ。
 さあ、じんわりと、でもネタバレすることなく解説しましょうねえ。
 

 モノクロの古い作品なので敬遠される方も多いと思いますが、むしろこういった作品ほど、モノクロで、しかも現代の映画のように過美なB.G.M.も効果音も無い事が、これほどまでに息も詰まるような重厚感を与えるものか、と逆に感心させられる映画です。

 物語は不倫の末の殺人事件───とよくあるきっかけから始まります。
 トシ食ってるけど社会的地位もある旦那に飽きた色気過剰な中年の嫁さんが、若いツバメと結託して旦那殺して逃げたろか、という、アレです。

Gallowselevator07

 計画実行は週末。
 敗戦後の国を挙げての建て直しで休みは盆と暮れだけみたいにシャカリキになって働いてた日本と違い、フランスの人は時間が来るときっちり仕事を切り上げてお帰りになるんですね。

 それを見越した上で、若いツバメ───ジュリアンはピストル自殺に見せかけて旦那を殺します。もうビルには自分たちしかいない。あとは逃げれば、事件自体が発覚するのは週が明けてから。(誰かが休日出勤する可能性すらないんですね、いいなあ)
 遠くへ逃亡してアリバイを作るにも充分な時間がある。
 ところが下に降りてから、現場に自殺ではないとバレる証拠を残してしまった事に気づき、急ぎ現場へ戻ろうとエレベーターに乗った時に彼の人生計画の歯車が狂った。

Gallowselevator02

 がくん、エレベーターが止まった。ビルの管理人も仕事が終わったのでエレベーターの電源を切って帰ってしまったんですね。

 今と違ってこの当時のエレベーターはドアに人が挟まるとか、階と階の途中で動かないとかの事故が多発してました。
 もちろん監視カメラなんか発明もされてないし、遠隔操作なんかSFみたいなもの。
 もっとも電話で外部と通信できたとしても、殺人の証拠隠滅に戻ろうとしてたジュリアンにそんな事できるわけもなく。

 なんとかして脱出しないと証拠は残ってるし、月曜になって社員が出勤してきたら全ては終わる。
 普通なら月曜までの間になんとかすれば…と脱出劇として描く事もできたんでしょうが、さすがフランス映画は違いますね。どっろどろの男女の絡みに持っていきますね。

 計画を終えたら例の不倫相手の奥さんと逃げるために待ち合わせしてるんですね。
 その奥さんフロランスを演じるのがこの後数本の作品を通じて世界にフランス美女の代名詞として名を轟かせることになる、ジャンヌ・モロー。

Gallowselevator08

 社の近所の喫茶店で今か今かとジュリアンが事を済ませてやってくるのを待ってます。
 普通ならデートの待ち合わせのシーンですが、これ、近くのビルの上では旦那が死んでるんですよ。で、その犯人を眼を輝かせ、ドキドキしながら恋する女が待ってる。
 なんて怖い構図でしょう。

 またこのシーンをあえてジャンヌ・モローを美しく美しく撮ってますね。

 しかしこの作品の面白さは“思惑のズレ”。

 ここにもうひとつの要因が被ってきます。ジュリアンがフロランスと逃げるためにビルの前に置いておいた車。
 私などは根っからの心配性なので最初にその車を見た時も気になりましたが、やっぱり予想通りになっていく。
 ただし、そこから後はまさかまさかの意外な展開が次から次へ。現代風のサスペンスに慣れた我々は、最初はこの作品の「こんなん、ミエミエやんか。しょーもなー」などと、素朴とも言えるほど単純な展開にアクビさえでかけるのに、どんどん意外な方へ転がって行くにつれて、いつしか思わず「えええええええ!」と声を上げてしまってる事に気づきます。

 さあ、どうなっていくかはご自身の目でご覧下さい。

 ひとつの歯車のズレが、何人も何人もの人生を連鎖的に狂わせていきます。
 伏線が判りやすいのは昔の映画ならではですが、逆に言えば食い入るまで見ていなくても理解できるので物語や役者の芝居をじっくり愉しむ邪魔にならないのはむしろ魅力です。

Gallowselevator06

 でも最後まで油断しないでくださいね。
 実は判りやすい伏線は、ラストのどんでん返しの伏線を目立たなくさせるための見事な技だと気づいた時の悔しさを味合わないためにも───。

 原題は『ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD』……直訳でそのまま『絞首台のエレベーター』なんですね。これ、意外でした。
 もっともいろんな含みがあるのかもしれませんが、エレベーターって天井が開いて、そこからカゴ(専門用語ですよ)の外へ出られるってこの映画で知りましたね。

 ただ『死刑台のエレベーター』といえば「ああ、あのエレベーターに閉じ込められる映画ね」という所ばかり印象的なので、そういうサスペンス映画かと思い込んでしまうところ。

Gallowselevator05

 勘違いしてはいけません。主役はあくまで“悪女?”フロランスを演じるジャンヌ・モロー。

 実はこの作品のテーマは“女の怖さ”なんですよ。というより、監督はジャンヌ・モローがいかに綺麗で、いかに綺麗な女が恐ろしいか…を描きたくてこの作品を撮ったのではないかと邪推してしまいたくなるほど。

 監督はルイ・マル。
 大金持ちの息子で、25歳の時になんと自費でこの作品をもってデビューしたというすごい経歴の持ち主です。
 もっとも育ちも良かったんですね。
 淀川先生も仰ってますが、ほんとうの意味での良質な教育、教養というものはおカネがないとどうしようもない。とはいえ、“大金持ちのボンボン”ちうのはふつうはハワード・ヒューズみたいな末路になっていくのが多いのですが、ルイ・マルは愛情にも恵まれていたんでしょうね。

ascenseurcd_2

 そしてこの映画で特筆すべきはやはり音楽。
 伝説のトランペッター、マイルス・デイヴィスのむせるような演奏がなんともスモーキーでアンダーグラウンドっぽい都会の闇を醸し出しています。

 近年なにを血迷ったのか、日本でドラマや映画にリメイクされたものの、いずれもかなり不評を買ったそうです。私は未見ですけど、やはりシチュエーションや物語のテンポを考えると、あくまでも制作当時の1957年の時代や社会的背景をふまえて作るべき作品でしょうね。

 では、また、お逢いしましょうね。

 ------------------------------------------------------------

|

« 『WALL・E/ウォーリー』21世紀のチャップリンは鋼鉄の箱形ロボット。(加筆) | トップページ | 『フロント・ページ』仕事中毒の人ほど必見の傑作コメディ。 »

【サスペンス】」カテゴリの記事

【人間ドラマ】」カテゴリの記事

【洋画:〜'69年クラシック】」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1340266/44940730

この記事へのトラックバック一覧です: 『死刑台のエレベーター』思惑のズレが人生の歯車を狂わてゆく:

« 『WALL・E/ウォーリー』21世紀のチャップリンは鋼鉄の箱形ロボット。(加筆) | トップページ | 『フロント・ページ』仕事中毒の人ほど必見の傑作コメディ。 »