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2010年5月12日 (水)

『アリス・イン・ワンダーランド』毒気がないのはT.B流な男の純情なのかも

Alice_in_wonderland1 なるほど、と思いました。いや、物語としてはいい映画なんです。
 なにが“なるほど”かと言いますとね、あちらこちらから聴こえてくる、この映画評。ティム・バートンという稀代の悪たれ監督に対するファンの望むテイストとは確かに違う、ということ。
 しかも選んだテーマがこれまた『アリス』で、「これは違う」という否定論。

 じつは私、童話が苦手でしてね。『アリス』をまったく知りません。せいぜい、ディズニーのキャラデザインと最低限の役柄程度で、相関関係もあらすじすらも知らないのです。

 ですからこの作品がどれだけ原作を逸脱していてどれだけ原作を活かしているのか知らずに、まったく一本の作品としてのみの視点で観られるという幸運(?)なスタンスでお話を進めさせていただきます。もちろん、ネタバレなし…といっても知らないのは私だけかも知れませんが。
 

 
 監督が著名となった映画作品の場合ほど、ファンはその名前を目当てに劇場へと足を運びます。とくにティム・バートンのファンは、発表する作品ごとに強烈な印象と皮肉たっぷりなシナリオの“毒気”に魅了された人がほとんどだと思うのです。

 しかも題材の『アリス』は、よりによって『赤毛のアン』と並んで熱心なファンの脳裏に創り上げられた、物語世界の強烈なイメージがある。
 極端に言えば、各国語ごとの翻訳版によるニュアンスの違いこそあれども、世界中のファンの数だけ描かれていない“その先の世界”すらもある程度出来上がっていると言ってもいいでしょう。
 いわば歴代の『アリス』制作者は、この無数の“見えない”兵士たちに敢然と挑戦してるわけですね。

 もうひとつ不利なのは、『赤毛のアン』の場合、舞台である風景は今も実際に存在して世界観のイメージは固定されている代わりに、キャラクターは特徴以外に世界的には決定打となるビジュアルイメージがないのに対して、『アリス』の場合は舞台が架空世界である種、適当な代わりに、キャラクターデザインにはジョン・テニエルによるあまりにも有名な挿絵があること。

Alice_par_john_tenniel_25mi
*この絵はすでにパブリック・ドメイン扱いになってるそうなので堂々とぶちこんでます*

 架空世界でイラストが基本───これは今の日本のコミックとアニメの関係そのもの。
 デザイン的には完全にオンリーワンになってしまって、それ以外は何をどうしても亜流になるんですね。今でこそカラー版のスタンダードであるディズニーのアニメでさえ、おそらくは初登場時はそれなりに反感を持たれたのではないでしょうか。

 若者に人気のライトノベルズが最初からアニメ・コミック系のしっかりした挿絵があることはご存じでしょう。
 逆にそのためにイメージが固定化して読者自身の経験に依ったキャラクター像を柔軟に考え出す事が困難なように、『アリス』は絶対に『アリス』の条件を満たしていなければならないという宿命を負っているわけです。

 オリジナリティで勝負するクリエイターとしては、はっきりいって最初から勝てる戦ではないですね。まだ “誰も見た事のないお話” に挑戦する方がよほど勝算がある。

Aliceinwonderland_4

 よく知らないんですが、アリスに惚れた作家は必ずと言っていいほど自分なりのアリスを描こうとするらしい。今で言う超人気アニメの二次作品が描きたくなるようなノリなんでしょうね。
 T・バートン版のアリスに対してよく耳にした評のひとつが「なんで17歳!?」でしたが、まさにこの作品が彼のアリスということなんでしょう。
 毒がないという話も聞いていたので、当初はアリスのイメージにキズがつくのを恐れたオトナの事情で圧力が…とも勘ぐったんですが、そんなことで屈するような人が『チャーリーとチョコレート工場《既出記事:観ないと絶対ソンする!家族愛の参考書。》』で鼠国の『It's Small World』をあんなにぐちゃんぐちゃんに描けるはずもなし。
 

 でね、ふと思ったのは。

 昔から大好きな大好きなキャラクターがいて、それが異性だったとして、自分で好きなように映像化できるとしたら、果たしてその時、クリエイターは仕事としてそれをこなせるのか。

 つまりです、ティム・バートンの毒はもともと持っていてにじみ出て来るものではあったけど、やはり商売用に濃縮してたわけですよ、プロ中のプロですから。
 けれど好きで好きで仕方ないキャラを前にした時、素に戻ってしまったのではないか。この作品を観ていてそんな気がしたんです。

 最初に書いたように私はアリスを知りませんので、17歳の戦うアリスもあるのかと思ってましたが、どうやら違うらしい。
 映画ファンはあの勇ましい出で立ちからジャンヌ・ダルクを連想された方もおられるでしょうが、アニメファンでもある私は『Fate〜Stay Night〜』のセイバーなのです。

Alice_in_wonderland3

 いや、それはどうでもいいけど、昨今は映画でもアニメでもなんでこんなに女の子が戦って野郎が守られる…という情けないシチュエーションの作品だらけなのか。
 そもそも女性が戦うお話は痛々しい。いや、痛々しいからこそ見応えがある。それが男に混じって凛々しく戦い、男勝りどころか男をはるかにしのぐ活躍を見せる…というのはいいんですが、そのためには野郎共はたとえヒロインよりも非力だとしても、必死に戦わないといけない。───まあその話は本家でまたネタにさせていただくとして。

 私個人の好みとしては、野郎がその背中に隠れてるような場合は腹さえ立ってくる。(とかいいつつ私自身、ヒロインが戦ってる話を描いてはいますけど、あれは逆説的なものとして話を進めてます)
 そういう意味ではなんでアリスが独りで矢面に立って戦う必要があるのかが解らないままなんですが、単純に観れば監督は『かっこよく戦う勇ましいアリス』が観たかった、と考えれば納得がいく。

 唯一、今作でいかにもティム・バートンらしいキャラクターに見える『気狂い帽子屋(なんで英語でMadHatterは構わなくて漢字表記だと変換さえもATOKに拒まれるのか?)』が彼女のサポートに廻るのは、バートン本人の身代わりなんでしょうね。

 しかし結果として、『毒気の薄い』T.バートン作品になってしまった。
 だけど、ここ数作はネジの外れた妙ちきりんな役柄の多かったジョニー・デップが、役者らしい顔を見せてくれた事が嬉しいですね。
 たしかに見た目は妙ちきりんですし、CMでもそういう見せ方をしてる。それだけに実際のお話の中で見せる、彼の正気と狂気の境界線を揺れ動く葛藤は見事な演技。

Alice_in_wonderland2

 人並み外れた個性派のティム・バートンという監督と、不思議の国のアリスを描いた…という、しがらみを忘れて鑑賞するなら、見どころもメリハリもあって平均点を取れるいい映画だと思うんです。
 でも正直言いますと、やはりアリスではなく彼を主役として描いて欲しかった。いや、本当はそのつもりだったのかも知れませんが、結果的にどっちつかずな印象になったように思えます。
 やはり、恋は人を狂わせる、ということですかね。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

私も「アリス」にまったく思い入れがないので、それなりに楽しめたのですけど、ティム×ジョニー作品には「毒」を求めてしまう癖が付いているんで、「んー?」というところです。

作風は作風として、それが必ずしも監督自身ではないってことかもしれませんね。
監督も演じている、とか(^^)

投稿: たいむ | 2010年5月12日 (水) 18:15

たいむさん、毎度です!
うん、私も今回の作品でティム・バートンは『ティム・バートン監督作品』というブランドを創ってたんやなあ、と実感しましたね。

イチローが『大リーガー・イチロー』を演じているように。

投稿: よろ川長TOM | 2010年5月12日 (水) 21:57

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