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2010年5月12日 (水)

『雨に唄えば』これを知らずにミュージカルを語るなかれ。

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 ♪あい、しーんぎ、んざれー。じゃっ、しーんぎ、んざれー。

 はい、みなさん、ごぶさたいたしました。今回はご存じの……

 え、あなた、タイトルは知ってるけどまだ観たことないんですか。そうですねえ、いまや名画劇場なんて番組もありませんし、なにせこうした映画をナマで観た年代があまりおられなくなりましたから、「これ、いい映画だよ」って若い人に教えることもないんでしょうかねえ。レンタル屋さんに並んでいてもピンと来ないかも知れません。
 まあ、まずはご覧ください。今の映画にない奥深い楽しさがありますよ~~~~!(この記事は2007年10月の記事に加筆したものです)
 

 アフレコという言葉、ご存じですね?アフターレコーディング、音声のない画面にあとから音声を同調させて録音する作業です。
 え?意味がわかりませんか。映画はたいてい、撮影の時に同時に録った音はそのままは使わないんです。音が良くなかったり、雑音が入ったりして台詞とかが聴き取りにくいから。だから、映画の映像部分ができあがってから、音声だけスタジオで録り直すんですね。

 この技術、1927年の映画で初めて使われたんですね。ところが映画の歴史はもっと古くて、1900年にはお金を取ってお客に観せる映画があったんですが、その頃はまだ録音技術が確立してなかったんで、もっぱら映像だけで、細かな内容は字幕なんかで対処していたんですね。
 ただ、それだけではつまらないから楽隊をつけて生演奏させたり、日本では弁士とよばれる映画の説明や台詞を講談調に聴かせたりしたました。

 で、そうして一世代、四半世紀が過ぎちゃって、すっかり世界というか映画界という業界は安定していたところへ登場したのがトーキーと呼ばれる新技術。今で言うならそれまでは平面だったのが立体になった…いや、それ以上の技術革新だったはず。

 この映画『雨に唄えば』はそんな時代のお話です。

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 ジーン・ケリー扮する主人公のドン・ロックウッドは押しも押されもせぬハリウッドイチの大スター。おなじく大女優のリナ・ラモント(ジーン・ハーゲン)とは何本も共演し大ヒットを飛ばし、毎作共演するふたりはマスコミにもロマンスをウワサされるような間柄。
 ところが実際には、普段はもちろん演技の最中さえも互いにののしりあいまくってる犬猿の仲。それというのもリナは性格悪く鼻持ちならないワガママ女だったんですねえ。
 映画会社の社長と懇意のドンは、あの女はなんとかならないかと詰め寄るものの、とにかくふたり揃っての共演作が売れているからには会社としても認めざるを得ないという有様。ドンもしぶしぶ次回作の契約にサインしますが…。

 悪女の毒気に当てられてげんなりしているドンの前に現れたのが、まるで子鹿のような女の子、ヒロインのキャシー(デビー・レイノルズ)なんですね。
 一応は芸能人志望でも、今はただの一般人のキャシーにしてみれば、ドンも鼻持ちならないプレイボーイに過ぎず、ドンにしてもキャシーは気の強い跳ねっ返りの小娘なんですが、やがて二人は魅かれ合います。
 この時キャシーを演じたデビー・レイノルズは弱冠19歳、ほんとにこの映画がデビュー作の新人だったんですね。
 はちきれんばかりの初々しさと一所懸命ながんばりが画面全体にあふれかえっています。とにかく、可愛い!いま絶対いないタイプの清楚な女優さんです。

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 そんなある日、これからの映画はトーキーで作ろう!という企画が持ち上がります。
 これはスゴイ!あふれる音楽、歌と踊り、愛をささやく恋人たちの台詞、なんでも映画に盛り込めるぞ…と皆がうかれたのもつかの間、エライことに気づきます。
 ヒロイン役のリナはとんでもない悪声だったんですね。もちろん歌なんて言語道断。ロマンチックなはずの台詞もお笑いにしかなりません。
 これ、オリジナルでもなかなかスゴイ声なのですが、昔『日曜洋画劇場』での吹き替え版も最高で、マリリン・モンロー役で知られる向井真理子さんが“おてもやん”風とでもいいますか、それはそれはぶっ飛んだ声の演技をなさって、テレビの前で大爆笑したものです。

 頭を抱えたのは彼女以外の全員。おまけに問題は彼女の悪声だけではありませんでした。なんせ今みたいに小さくて高性能のワイヤレスマイクなどはありません。
 まるで灰皿か移動式蚊取り線香の入れ物みたいなマイクしかないのと、録音技師などろくにいないから、どうやったら効果的に音が拾えるのかも解らない有様。
 手を変え品を変えて試すものの、どれも失敗ばかり。
 もちろん、アフレコなんて考えもつかない。だって、誰もやったことない時代ですから。

 難航する映画撮影とは裏腹に、ドンとキャシーの恋は急速に発展してゆきます。
 さあ、ここで登場するのがあの有名な、ジーン・ケリーが大雨の中で一人うかれて踊るシーン。

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 これ、まったくのノーカット長回しで何分あるとか、巨大なスタジオでの撮影で降らせた雨は総量何トンだとかゆー無粋な話はこの際忘れてください。
 要は、とにかく恋にのぼせた男の嬉しい嬉しい気持ちを全身全霊で表すとこうなるよ、という見事な見事なシーンなんです。
 ほら、あなたも経験あるでしょう?好きなあの娘からはじめて笑いかけてもらった時とか、はじめて手を繋いだ時とか、告白が…え?しつこい?分かり切ったことを言うな?

 いやいや、そういう忘れてた気持ちを思い出させてくれる作品だと言いたいんです。

 これねえ、この気持ちに少しずつぐ、ぐぐ、ぐーっと盛り上がってゆくドンの恋の、想いが募ってゆくプロセスこそが大切なのに、民放版ではノーカットでなかったから結構突然出てきたりして、ガックリ来たもんです。今回はそういう事がないので、じっくりと恋をしてゆく過程も楽しんでくださいね。

 さて、楽しい楽しいこの作品の唯一の悪役、リナ役のジーン・ヘイゲンですね。
 この人が実に巧い。
 劇中では悪声で、そのためにデビー・レイノルズ扮するキャシーに“吹き替え”をさせることになるんですが、面白いことに新人のレイノルズがラストで歌を唄うシーンでは、実はヘイゲンがレイノルズの吹き替えをやってるんですね。
 つまり、リナの声を吹き替えているキャシーの声は実はリナの本当の声、というわけ。ああ、ややこしいですね。

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 あと、共演でドンの親友役コズモを演じるのはこれまた名ダンサーのドナルド・オコナー。ちょっとダニー・ケイなどとイメージ的にダブるんですが、いかにもブロードウェイの舞台芸人といった雰囲気で、台詞は少ないのにとにかく身体と動きで語ってしまうところがものすごい。

 また、冒頭に出てくるドンの無名時代の回想シーンがチャップリン顔負けのものすごいアクションだらけなのと同時に、当時の活動写真撮影の裏側がチラと見られて楽しいですよ!あれも映画の大先輩に対するオマージュなんでしょうね。
 そして目を疑うのがオコナーとのバイオリン演奏のシーン!特撮なしではありえない動きですよ!もちろんCGでもVFXでもありませんからぜひお見逃しなきよう。
 事実、ジーン・ケリーがいたからマイケル・ジャクソンのダンスがあるのです。

 とにかくダンス、ダンス、ダンス!制作は1952年、まさにハリウッドミュージカルの黄金期の作品です。

 *イメージ画面は海外の映画情報サイトほかから拝借いたしました。

■万一、観たことないとか見そこなった方には───
 TSUTAYAオンライン『雨に唄えば』DVD

 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

(〃⌒ー⌒)/どもっ♪
お世話になります~!
>リナの声を吹き替えているキャシーの声は実はリナの本当の声
コレ驚きです!
あの甲高い声はまぁ作ってるんでしょうけど、
大根風の彼女がひょっとしたら一番の芸達者だった
って事なのかも~。
いやぁ~昔の映画ってエピソードだけでも
本当に面白いですよねぇ~。
ってなワケで、今後ともどうぞよろしくお願いしますm(_ _"m)ペコリ

投稿: miyu | 2007年10月15日 (月) 22:00

よろ川長TOMさん、あけましておめでとうございます。

確かにドナルド・オコナーとダニー・ケイって雰囲気似てますね。
ミュージカル映画の楽しさが全部詰まっていて大好きな作品です!

それにしても、本当に淀川さんがしゃべってるみたいですね、すごいなあ。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: moviepad | 2008年1月 3日 (木) 13:04

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雨に唄えば(1952 アメリカ) 原題   SINGIN' IN THE RAIN     監督   ジーン・ケリー スタンリー・ドーネン      脚本   アドルフ・グリーン ベティ・コムデン       撮影   ハロルド・ロッソン 作詞   アーサー・フリード 作曲 ... [続きを読む]

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