『第9地区(District 9)』あえてパクった!?新時代のリアル系SF
はい、みなさんこんばんわ。なんかね、ものすごく不思議なSFを観ましたよ。
まあお話はね、読めるの。もう、だいたい最初の印象のままの映画。ましてSF映画がお好きで、リアルタイムでも10何年とご覧になってたら若い方でも、あ、これあの映画、うん、これはこの映画…って感じで、なんか今の最新技術でグレードアップして継ぎ接ぎしたみたいに感じることでしょう。
ところがね、アプローチの仕方が巧い。これはSFがお好きなら観ておいた方がよろしいと思いますよ。
先般、アカデミー賞を取った事でがぜん注目を浴びた『ハート・ロッカー』。手持ちカメラによるドキュメンタリータッチの撮影法と、一歩引いてやや醒めた語り口で描かれたことで、創り手が語らずに観客の側に問題を投げかける作り方で新鮮な印象を与えましたね。
この『第9地区』はまさにそれ。ただし、SFでこれをやった人はたぶん、このピーター・ジャクソン監督が初めてではないかと思います。え、あ、そうですか。監督はニール・ブロムカンプという人ですか。ピーター・ジャクソンは製作なんですか。これはしたり。
ピーター・ジャクソンはなんといっても特撮の『指輪物語』三部作で知られますが、あいにく私はあまりあれ、興味なくて観てないんですよ。大昔にアニメになりかけたおどろおどろしいのは知ってるんですけどね。
夕陽にうかぶ宇宙船のシーンは情緒さえあって、かの傑作『平成ガメラ』でのギャオスの巣を思わせて美しい。しかし、あまりにもあの映画の宇宙船にそっくり。そのワケの予想はのちほど。
ニール・ブロムカンプ監督は南アフリカ共和国・カナダ在住という異色の出身ですが、だからこそ南アのアパルトヘイト問題をこんな形で取り上げたのかも知れませんね。経歴を見ると、『ハムナプトラ』のスピンオフ作品『スコーピオン』や、人気SFTV『スターゲイト』『ダークエンジェル』でそれぞれ3Dアニメーションの担当。だから今回の作品はいわば大抜擢。これも驚きです。
製作のピーター・ジャクソンの前作は『キングコング』。
私は名前を観た時にてっきり彼が監督だと思い込んでたんですが、なんとなくテイストが似てるんですよ。この人ならではのリアリズム追求の方向性といいますか。先日またハリウッドでゴジラのリメイクがアナウンスされましたが、この人が監督したら、完全に新たな解釈ではあっても、映画として結構いいものができるのではないか、とも思えたり。
この二人、気があったというか、ある意味で思想的に近いのかも知れません。
お話は読めるとはいえそれは私らがアニメや黄金期の特撮にどっぷり浸ってきてる日本人だからで、ハリウッド映画としてはユニークな部類です。まず、宇宙人の侵略でもなければ地球人との戦争でもない。一触即発状態ではあっても、異常に血の気の多い軍人やらやたら個人プレーしたがる大統領とかも出てきません。
なんと話のベースになる異星人は、宇宙船が故障して地球へ流れ着いたという“宇宙難民”。これはハリウッドSF映画史としては新しい。
ただし、宇宙人の難民という考え方、実は日本が元祖。かの有名なバルタン星人、彼らのやりかたは無茶苦茶な侵略者以外の何者でもありませんが、彼らの言い分を信じるとしたら、『ある狂った科学者の実験のために母星が破壊され、たまたま宇宙を旅していた彼らだけが生き残り、こうして地球までたどり着いた』という設定だったんですね。
いわば、そのバルタン星人を地球が受け入れたとしたら、こうなったのか?みたいな話なんです。ただし彼らの人口は初代ウルトラマンの想定時代で「20億3000万ほど」で、当時の地球人類全部の22億に匹敵するのだとか。今は65億越えてるから昔の話になったんですねえ。
ほかにもウルトラセブンのペガッサ星人やら、枚挙にいとまはありません。まあ、とにかく常に仮想敵を決めておかないと落ち着かないアメリカと、囚われる事のない日本ではそうした発想力はたぶんこちらの方が自由なのかも。
閑話休題。
表現手法は『ハート・ロッカー』まんまですが、ドキュメンタリータッチはこの『第9地区』のほうがずっと徹底している。むしろ、いったいいつになったら芝居が始まるの?と思うほど。
私の勉強不足かも知れませんが、出て来る登場人物を演じてる人たちのひとりとして知ってる顔が居ない。これが実に効果的で、BSなどで観る、海外ネットワークのCBCやABCのニュースを普通に観ているような錯覚に陥るのです。
これ、日本語吹き替えがあるかどうか知りませんが、もしそうならニュースのシーンは役者にさせず、本物の同時通訳の人にしてもらうべき。そのほうが臨場感が違う。
ごらんになったこと、ありますか?なぜか外国人の男性アナウンサーの声を女性が、逆に女性アナウンサーを男性が同時通訳する事が多いので、ものすごく違和感があるんです。
それにアナウンサーと違って抑揚がないし、同時通訳なのでたまに言い損なったり嚙んだりするのが生々しい。
声優さん以外を吹き替えに使う事に強く反対する私ですが、この映画ばかりはヒネリが欲しいところですね。
特撮技術に関してはもう、完成していると言っても過言ではないですねえ。文句の付けようがありませんわ。
手ブレだらけの画面に入ってくる、『インディペンデンス・デイ』に登場するのとそっくりの巨大宇宙船。ほんまに普通に空を見上げたら、そこに本当に浮いてるという実感が伝わります。
数万人の宇宙難民エイリアンが隔離された“第9地区”への潜入レポで役人と普通にやりとりしているエイリアンは、いったい被り物なのかCGなのか、もう今さら考えるのも馬鹿馬鹿しいほどに“あたりまえ”な自然さ。21世紀ってすごいですねえ。
『ジュラシック・パーク』でも本物みたいだとブームになったけど、これと比べるともうどうということもない。
またこのエイリアンのデザインが『ザ・フライ』でジェフ・ゴールドブラム演じるセス・ブランドルのハエ男変態後の姿に酷似してる。ネタ自体さえも、ええんかいな、と心配になるほどパクってるんですよね。
思うに、これはわざとなんではないでしょうかね?
監督が二つの映画で感じた不満を、オレが作ったらこんだけキチンとできんねんぞ!とばかりに“リメイクした”作品だという気がすごくしましたよ。『インディペンデンス・デイ』ではご都合主義なストーリー部分と、劇中でのニュース報道の嘘くささ。『ザ・フライ』は当時としては最先端の特撮でしたが、今ならこれだけできるんやで、みたいな。
先にも書いた、異常に血の気の多い将軍もスタンドプレーの大統領もでないのはそのせいでしょう。だって、んなことありえませんもんね。
だから戦闘シーンでも、まるでイラク戦争の実況中継みたい。あまりにも人の死が無機質で、死んだ兵士に家族が居る事なんか思いもしないドライな描き方なんですが、だからこそ逆に寒気がしますね。そして観ているうちに、人の死もエイリアンの死も同じに見えてくる。
『第5惑星』も生命の平等を描いてますが、こんな手法でそれを感じされられるとは思わなかったですね。
それにこれの監督はハエ男のあの独特なデザインがすごく好きだったのではないかしら。50年代の『ハエ男の恐怖』はモロでしたが、『ザ・フライ』ではちょっともハエには見えませんでしたからね。
よく考えたらジェフ・ゴールドブラムは『インディペンデンス・デイ』の主役でもある。これはもう、確信犯ですよ。
欲をいえば、画面が手ブレだらけでしょ。字幕読んでたらせっかくよくできたエイリアンの造形だの、巨大宇宙船が浮いてる状態に浸ったりする余裕がないの。
字幕版で二度観るか、吹き替え版でじっくり画面にかじりつくか。
とにかくこの映画は、画面をたのしむ映画です。
ただし、言ってる事は実はけっこう実社会に対して皮肉たっぷり。
そもそも宇宙船がやってきた場所がアフリカ。しかも政情不安定なとこへ持ってきて、エイリアンを殺して奪った武器を密売するヤツだの、良心的な地球人がエイリアンにと寄付した援助物資の食べ物を高利で売りつける悪党だの、だんだん化け物はいったいどっちなのか頭を抱えそうになってきますね。
それもこれも含めてこの作品は最終的に観客にさまざまな疑問を提示するだけで終わります。
投げかけてるんじゃないんです。さまざまな疑問をカタログみたいに並べるだけ。
この映画から学べる人は学べ。楽しむ人は楽しめ。しかし例え何も得られなかったとしても、それはそれでいいよ。
───そんなふうな、なんとも今風な、だけどものすごい映像の映画でした。
さて、あなたはこの映画から、何を感じ取りますか?
では、また、お逢いしましょうね。
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コメント
こんにちは、よろづ屋TOMさん♪
宇宙人の造形や物語の設定など、それぞれのパーツパーツは決して目新しいモのではないんですよね。
それなのに、この衝撃。
これは監督のセンスなんでしょうね〜。
(冷蔵庫の余り物でも、シェフにかかればこの通り〜♪…って感じ?)
パワードスーツの動き一つとっても、『うんうん、ああなったらあんな動きになるよね、うんうん』と思わせるこだわりっぷり♪
これはDVD買って何回も繰り返し観たい作品ですね〜。
投稿: ともや | 2010年4月10日 (土) 13:14
ともやさん、毎度です。
冷蔵庫の残り物…うーん、うまい!…内容もオチもミエミエやのに、やっぱり観てみたい、てのはもしかしてコレ、名作なんですかね。
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月10日 (土) 23:11
こんばんは☆
お約束通り来ましたよ〜★
すごくオモシロかったです!大満足♪
もう話したい事はたくさんあるんですが
わたしのブログのコメントのお返事もたまってますので、、、、
それにしてもほんと、新しい面白さで何度も観たいです♪
投稿: mig | 2010年4月10日 (土) 23:55
migさん、毎度です。
不思議な映画でしたねー。最初、回想録みたいにして喋ってる連中がうそくさいなあと思いながらも、だんだんふつうにテレビ報道を観てるような錯覚に陥る。
続編の噂もあるそうですが、個人的にはこれで完結して欲しいですねえ。
なんでもかんでも続編作ったらあかんです。この監督には、次はオリジナルで勝負して欲しい。
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月12日 (月) 15:41
はじめまして。
トラコメありがとうございました。
特撮お好きなのですね☆
この映画も、本当に自然な特撮が、ニュース映像のリアルさと合わせて、本物に見える本物の映画でした。
『何でも3D』の最近の風潮に物申す映画が現れて、すっきりしました。
投稿: ノルウェーまだーむ | 2010年4月12日 (月) 16:22
ノルウェーまだーむさん、いらっしゃいませ&はじめまして♪
えー、もお、特撮もアニメもSFもふつーの映画も大好きです!
ことにリアリティに徹した特撮はたまらない好物です。こんな調子ですが、これからもごひいきに。
(-_-;)なぜだろう…失礼ながら「ノルウェーまだーむ」さんの名前、心の中で鼻から息を抜きながら発音している自分がいます。
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月12日 (月) 17:51
TOMさん、こんばんは!毎度です、コメントもトラバもおおきに!です。
この映画は、今年になってかなりお勧めの作品なんで、TOMさんにも、はよう観てほしかった一作でした。
ドキュメンタリーの手法を取り入れて、「ほんまにあったウソのような話」みたいに持っていっているところが面白いし、最後はなんだかほろっとくるようなペーソスもあって、もういっぺん観たくなりましたわ。あのエビをデフォルメしたエイリアンの姿と、さんざん飛び散る血のボリュームのために、ハッピーエンドのラヴストーリーしか観ないなんて人にはお勧めできないけれど。
投稿: 猫式部 | 2010年4月12日 (月) 21:52
猫式部さん、毎度です!
劇中では彼らをさげすんで『エビ』って呼んでますが、やっぱり私には『ブランドル・ハエ』にしか見えません
(;>_<;)あーキモワル。『スターシップトルーパーズ』の原作では、敵がクモそっくりで、そんな連中と理解なんか絶対しあえない…というくだりがあるんですが、こればっかりは私も同感かなー。
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月12日 (月) 22:37
こんにちは(^^)
なんだかなぁ、映画の斬新さとか特撮の自然さとかは本当にすごいなって思うのだけど、人間の化け物っぷりをこうまでまざまざ見せつけられて気持ち悪くて気持ち悪くて楽しむどころじゃなかったです。
>この映画から学べる人は学べ。楽しむ人は楽しめ。
(泣)。
そうなんですよね。まともに喰らってげんなりしていたのだけど、ちょっぴり気が楽になりました。とにかく総じて評価が高くって、居心地悪いのは私だけ?とか思っていたところだったので。
私自身どうなのか、ってことで良いんですよね。
(まぁそう思って、素直に記事をアップしたのだけど)。
投稿: たいむ | 2010年4月13日 (火) 17:35
おおっ。
ここに平成ガメラのギャオスを持ちだしてくるとは…。
おそらく、あの東京タワーのシーンですよね。
この映画も、あれと同じほど画期的。
ただ、後の2作が最初を超えられなかった(と、ぼくは思うのですが)ように、
(作られると言われている)この続編、そうとうに心してかからねばと、
そんな危惧を抱いてしまいました。
投稿: えい | 2010年4月13日 (火) 23:00
*たいむさん、毎度です!
もう、シニカルちゅうかアイロニーいいますか、毒だらけの映画ですからねえ。逆にこの作品から毒を感じなかったとしたら、それこそ問題です。
まあ私の場合は毒の苦みを味わってたクチですけど?
*えいさん、毎度です!
あら、えいさんは平成亀、1のほうがお好みですか?私は逆なんですよ、あとになるほど好きで。たぶん、特撮としての完成度で惚れてるんだと思います。亀3の超アオリ撮影、あれが忘れられないんですよ。
昔からずっとゴジラに抱いていた不満が一気に解決された構図だったので、感動でふるえ、涙したほどでして。
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月14日 (水) 00:06
こんにちは~♪
この映画は物凄く評判がいいようですが、何故か私はハマれませんでした(汗)
面白いとは思ったんです。斬新だし、展開から目が離せなかったのですが、どうしても不快感を拭い去ることが出来ませんでした~
ところで、先日『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』にコメント頂きどうもありがとうございました~
あれは名作ですよね~
切なさと可笑しさの絶妙なバランスが最高でした!
最後の寂しい海は何でだったのでしょうね~
でも、それも映像として深く心に残りました。
投稿: 由香 | 2010年4月19日 (月) 16:25
由香さん、いらっしゃいませ♪
いや、実際好き嫌いのハッキリする映画ですよ。毒だらけですからね。
いわば苦みと渋みだけの飲み物みたいなもの。しかしこの作品に込められてるその“不味さ”の意味を知った上で味わいたいとは思いますね。
たとえ好みに合う人も「お、これはイケる」と単純に喜んでいてはいけない映画だと思うのです。
『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』は興行的には別として、中身は大当たりでしたね。ああいう作品に出逢うと、すごく得した気分になりますよね♪
投稿: よろ川長TOM | 2010年4月20日 (火) 21:34