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2010年2月 1日 (月)

『アパートの鍵貸します』男の優しさってなんやろか?

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 はい、みなさんこんばんわ。
 まえにご紹介した傑作コメディ『あなただけ今晩は』のキャスト・スタッフが、その3年前に撮ったのがこの作品。
 私がはじめてコレを観た時は小学生。正直、まったくこの作品の良さが解りませんでした。

『あなただけ今晩は』が、子供が観ても笑える生粋のコメディだとすれば、こちらはぐっと大人のテイストで作られた深みのあるお芝居で魅せる、少々難度の高いコメディ。
 だけどジュニアだって、一度でも恋をした事があるならぜひご覧なさい。まるでお酒の味のように、今は解らない所も回数を重ねるたびに意味が解ってきます。この映画の洒落っ気や意地の悪さが分かるようになります。

 年配の方には有名な作品ですが、クラシックとなっててご存じない方も多いかと思いますから極力ネタバレをさけて解説させて戴きますね。
 

 
 舞台は1959年の暮れも押し迫ったニューヨークの冬。マンハッタンの一等地に巨大なビルを構える超一流保険会社に務めるものの、しがない計算係のひとりに過ぎないバクスターは、なぜか上司たちの受けがいい。それどころか近々、大抜擢昇進の話も浮上してくるほどの上昇株……でも実はそれもこれも、彼が一人住まいするアパートの部屋が、上司たちの浮気用ラブホと化していたためだった───

 ね?こんなところからして、子供では…というかお子様には説明できませんわね。
 でも昔の粋な時代の映画ですから、ベッドシーンとかの不必要な見苦しい画面は一切出てきません。だから逆に子供が観ていてもよほどのおませさんでない限り、台詞や行動からは分かりませんね。
 私は奥手だったんでまさにそうでした。だから昔はこの映画の良さが分からず、大人になってやっとこの映画の意味や面白さが解りましてね。しかし、実はこういう“想像をかき立てる”演出の方がよっぽどエロティックなんですよ。


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 それはともかく、もともと商売で部屋を貸してるわけじゃないし、なにせ相手は上司なので断りたくても断れず、仕方なく部屋を譲って極寒のニューヨークの寒空にコートだけで追い出される始末。
 しかしそんな事情を知らないアパートの隣人は、彼が女性をとっかえひっかえ連日どんちゃん騒ぎに興じているろくでもない遊び人だと思い込んでいる。
 だけど実際はX'masも近いのに一緒に過ごす恋人もなく、とうとう風邪までひきこんでしまった上に、上司のそのまた上の偉いさん───部長にバレてしまうんですね。ところがこの部長が悪いおっさんで、自分も部屋を使わせろとバクスターに迫る……。

 バクスターを演じるのは、前年の『お熱いのがお好き』でメガホンを取ったビリー・ワイルダー監督と二度目のタッグを組むジャック・レモン。その後この組合せで『あなただけ今晩は』『フロント・ページ』が作られる。よほど気が合ったんですね。
 ちなみにバクスターの通称が“バド”。劇中でも上司の一人が彼の事を「バッド・ボーイ」と呼びます。もちろん悪ガキとかの意味なんですが、実際には真逆の真面目で真面目で、真面目すぎるゆえに上司の悪だくみに荷担させられ、真面目だから苦労しまくる彼に対する、ビリー・ワイルダー流の皮肉になっている。

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 そして敵役とも言える悪い悪い部長を演じてるのは、この作品の後テレビシリーズ『パパ大好き!』の主演で、なんとも人の良いやもめのマイホームパパを演じて日本でも大人気を博す事になるフレッド・マクマレー。
 悪役ですが、顔はカピバラみたいにぬほり〜んとしております。それまではよくディズニーの実写コメディに出てた人で、この作品の次の年、1961年にはかつてロビン・ウィリアムズ主演でリメイクされた『フラバー』のオリジナル版もこの人が主演。
 CGなんかない時代ですからフラバーも生命こそありませんでしたが、勝手自在に跳ね回るゴムボールが愉快なコメディ映画でした。しかもこのボール、ある細工をすると空中に浮かぶので、T型フォードに装備して空飛ぶクルマができあがるという…あ、これはまた別の機会に。
 昔、ディズニーご存命の頃は、動物ものやSFまがいの夢のある短いコメディとかけっこう撮ってたんですよ。

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 それはともかく、この作品ではこのおっさん、フレッド・マクマレー(写真・上左)。サイテーな色ボケ無責任オヤジを演じております。

 とにかく舞台となってる会社がでっかいの。従業員3万人、多すぎるので退社時間は部や課ごとに時間をずらすシステムで、摩天楼だから大型のエレベーターが常に数機動いていて、それぞれに専業のエレベーターガールが配備されている。
 もっとも、この時代は今みたいな自動エレベーターはないので、大きな会社なら日本でも電話交換手と共に必ず数人おられたらしい。そして主人公バクスターはそのエレベーターガールに恋をするんですね。

 その人こそ、次回作『あなただけ今晩は』でも相手役を演じたシャーリー・マクレーン。

 この時彼女は25歳だったはずですが、当時流行であるくるくるパーマとは真逆をゆくショートカットは当時もかなり新鮮だったはず。よくこの人のことをコケティッシュだと表現されるのを眼にするんですが、私は色気よりもむしろボーイッシュな愛らしさの方が強く印象に残る女優さんです。
 まあそれも吹き替え定番が小原乃梨子さん(ドロンジョで今また若い方にも知られてますね)だからかもしれませんが、この作品でもパジャマ姿が出てきたりして、そのシーンはかなりな萌えです。

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 私のシャーリー・マクレーン感は、なんといっても眼。今も昔もぱっちりした印象の女優さんが多い中、この人は普通にしてるとモディリアニの絵を連想させるような、そしてどこか東洋人的な眼をしてられるんですよ。
 ご本人は一休さんの最後の愛人の生まれ変わりだと公言されてるんで、あるいはほんとにそうなのかもしれませんね。
 それと、ちょっとツンとした印象の上唇と、少し丸く前に出たあごのせいか、すましている時と笑っている時の印象ががらりと変わる。

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 ところで冒頭でバクスターを“しがない計算係”なんて紹介しましたけど、彼のモノローグを聞いているとけして“しがない”ことなんかないんですよ。

 まず1959年という時代背景。日本もですが、資本主義の高度成長期です。ましてアメリカは飛ぶ鳥を落とす勢いで当時の通貨レートは1ドル=360円、しかも当時日本ではコーヒー、ラーメン1杯がほぼ50円だったとかですから、1ドルは今の3,600円くらいの値打ちがあった事になる。そこでバクスターの給料は週給95ドルで家賃は一ヶ月85ドルだそうな。
 まあ、単純計算で月給13万ですが、当時日本の大卒初任給がウン千円の金銭感覚からするとかなり高給取りってことになります。

 朝鮮戦争が終わってベトナム戦争に入るまでの束の間の平和───まあソ連との冷戦のまっただ中ではありますが───機械文明としても電算機が登場して取り入れられつつあるけれど、まだまだ人間が主役だった頃です。
 この作品でも冒頭でバクスターが電算機のリズムに合わせてノッてたり、それが時間が来るとピタッと止めて一斉に帰って行くなど、モダンタイムスの逆を行くスタイルで非人間的な仕事ぶりを皮肉ったオープニング。

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 そしてバクスターのアパートは、石造りで立派だけどかなり古そうな建物なんですが、これも冒頭、本人のナレーションで「中古のクーラーがついたので家賃が値上がりした」とボヤいてるし、テレビはモノクロではあってもちゃんと手元にリモコンがあるのには、私もビックリしました。
 今で言うハイテク。
 画面からは有線式か無線式かは分かりませんが、日本でそうした無線式のテレビリモコンが一般向けに発売されたのは随分あとの事でしたからね。
 で、それで観ようとした深夜劇場は『グランドホテル』とどうやら『駅馬車』のよう。

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 で、この時食べてる深夜の晩メシもでかい冷蔵庫から取り出した冷凍のチキンをオーブントースター風の調理器でチンしてる(家庭用電子レンジはまだありませんので)し、当時としてはかなり進んだ生活です。
 だってこの頃、日本で冷蔵庫のある家なんてほとんどありません。電話もテレビもそう、ましてクーラーなんか夢もまた夢です。
 しかものちに登場する、会社丸ごとでのクリスマスパーティーのバカ騒ぎっぷりやら町の賑わいやらのすごいこと。

 ところがそんなハデハデで恵まれた生活なのに、オープニング以来この作品にずっとつきまとうのが寒々しい孤独感。

 ひとりぽつんと浮き上がってるバクスターの孤独感はどうでしょう。
 じつは冒頭から、たったひとりで残業をして時間をつぶす彼のロングショットなんですね。しかも彼が口を利くのは部屋を貸してる上司か、せいぜい席の近いおっさんにひとこと、ふたことだけ。
 親しい友達がいないんですね。

 隣家のドクターは商売上か人柄か、なにかと好意からバクスターに忠告はしてくれるものの、最後まで彼がバカ正直な純情青年だとは知らないままだし、またバクスターも「実は」と打ち明けもボヤキもしない。初めから終わりまで、「ま、いいか」なんですね。

 そんななかで彼がした恋も、やはりとびきり寂しくて切ない恋。

 アパートの部屋貸しのおかげで異例の出世をとげながらも胸には常に虚しさが伴う。

 バクスターを演じるジャック・レモンのなんともいえない寂しげな演技が多くの人の印象に残ったんでしょうね、この後彼は「ペーソスを演じさせたら最高の俳優」と呼ばれるようになってゆきます。え?ペーソスって何?ですって?
 きっと、この映画をご覧になれば分かりますよ。
 女性は恋愛映画で胸がきゅんとなるかもしれませんが、男は彼の映画を観て男の切なさ、つらさを知ってきゅんとなるんです。

 この映画で、彼を通じて男の優しさってなんだろか、と考えさせられるんです。
 ほんとの男らしさとはどういうことか。もちろんイマドキの考え方なら彼は積極的な行動はほとんどとらないヘタレとか意気地なしに見えるかも知れませんが、どんなエライ目に遭ってまでも、好きになった女性のためにひと肌脱ごうとする、静かな意気込みを感じて欲しいのです。

 そして彼が彼女に献身的に捧げる愛情。そこには邪心など微塵もない。あるのはいたわりの心だけ。なんとかして彼女を癒してあげたいと願う気持ちしかないんですね。
 あるいはそれは恋愛感情であると同時に、自分同様に都会で孤独をかこって独りで不器用に生きてきた彼女にしてあげられる友情だったのかも知れません。

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 ラスト近く、ようやくその事に気づくシャーリー・マクレーンの一瞬の表情の変化を見逃さないでくださいね。おもに台詞廻しの巧さ、面白さで攻めてくるビリー・ワイルダー作品ではありますが、このまったく台詞のない数秒の演出、見事です。
 またそのシャーリー・マクレーンの演技も素晴らしい。ようやく報われるバクスターのことを考えるとおもわず涙がこみあげてくる。
 そして、ラストカット。粋です。これが、50年代、60年代の恋愛映画。これが、ビリー・ワイルダーの粋。

 ビリー・ワイルダー作品、しかも脚本も天才:I・A・L・ダイアモンドの手になるこの映画、最大の見どころはもちろん脚本、台詞、シチュエーションの妙なので、あえて肝心な部分───バクスターが恋に墜ちて彼女を少しづつ知って行く過程───の細かいところは伏せておきます。
 幸運な事にまだお話をご存じない人は、ネタの分かってしまう他の映画サイトやウィキで下調べなどせず、映画の物語を時間に沿って主人公バクスターとシンクロしながらご覧になって戴きたい。

 バクスターが事実関係を知って行くくだりの演出、さりげない小物の使い方のなんと巧い事か。もしあらすじをご存じなかったら「えっ」と驚かれる方も多い筈の仕掛けがいっぱいなんです。

 男の人は、女の人へのいたわりの心、男の思いやりを知ってください。
 女の人は、へなちょこ野郎でもイイトコはあるんだと知ってください。

 いい映画ですよ。これ。

 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

こんにちはー!

この映画、わたしも大好きです!ほんまに、男女の微妙な距離感を浮き彫りにし、おっしゃるように“粋”があるんですね。ジャック・レモンもシャーリー・マクレーンもすっごくいい味を、さりげなーくにじませているし。

この映画の題名を聞いたとたんに、テニスラケットで、スパゲッティの湯切りをするシーンをいつも思い出します。

男の本当の優しさ。あったかい日だまりのベンチで、横に並んで座って、別に会話せずともずっとそうしていたくなるような男を、ジャック・レモンがみごとに演じていると思います。

投稿: 猫式部 | 2010年2月 5日 (金) 11:08

ほんと、ほんと!

私も大好きな映画です。ジャック・レモンもシャーリー・マクレーンもすごくいい!

この映画の題名を聞いてすぐに思い出すのは、テニスラケットでパスタの湯切りをするおかしなシーン。

日だまりの公園のベンチに、ただ黙って横に座って、そのままぼーっとしていたくなるような優しい男やと思います。

投稿: 猫式部 | 2010年2月 7日 (日) 10:58

猫式部さん、ほんまにウチのスパムブロックがアホタレですみません!
ちゃんと二件ともコメントが保留されていたんですが、要らない時には本物のスパムでも「コメントが来ましたよ」と通知が来るクセに、こうした時にはほっとくといつまでも知らん顔状態なんですよ。
しかしわからん。一体、このコメントの何がスパムにひっかかったのか!?

ご迷惑と不愉快な思いをさせたことをお詫びします。
放映は月末ですが、忘れずに録画したいと思います。昔のすりきれた録画ビデオしか持っていないもので…。

投稿: よろ川長TOM | 2010年2月 8日 (月) 18:00

BS2の「シネマ堂本舗」アカデミー賞特集?を見て、チェックしてました~~(^^)
ヒッチコック作品とかオードリーの出演作品はそれなりにみているのだけど、白黒作品はなかなか手が出なくてね(^^;

話は飛びますが、成田美名子の『エイリアン通り』(ご存じかしら?)って副題がいつも映画をもじってたんですが(ちなみに1巻:真夜中のカウボーイ、2巻:アラビアより愛をこめて、3巻:夜ごとの魔女、4巻:略奪された一人の花嫁、5巻:鷹は舞い降りた、6巻:親父が出てきた日、7巻:この家の鍵貸します、8巻:翼よあれが郷里(ロス)の灯だ)、7巻の元ネタというだけでずっと興味があったんですよね。(内容は映画とは無関係だけど)
ちょっと見てみようかしら?って気分です。
同日午後1時からの放送の『チャンス』も気になってるんですが(^^)

投稿: たいむ | 2010年2月10日 (水) 00:58

やー、たいむさん、いらっしゃいませ!
すみませんねえ、やっぱりアホタレなスパムブロックが作動して…
じつはこの前から切ってるんですが、なぜかいまだに勝手にはねるんですよ。

ところで成田さんは同い年で、デビュー時から読んでました。ただ、創刊号からとはいえLaLa本誌のみだったのでサブタイトルまでは…。
ほほー。なかなかお好きなようで。しかし1巻はまんまですな。

この映画は良いですよ!モノクロだから観ないなんてもったいなさすぎます。たいむさん程の人がなんちうことを。
下手なカラーより色がありますからね、ましてビリー・ワイルダーはクセになりますよ。名作ですがこれくらい古いとあまりレンタルでも置いてないのでそれこそ“チャンス”です。

投稿: よろ川長TOM | 2010年2月12日 (金) 04:38

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