« 『カールじいさんの空飛ぶ家』夢の映像化はリアリズムから | トップページ | 『カールじいさんの空飛ぶ家』鑑賞後用ver./実はすごく意味深 »

2009年12月 3日 (木)

『スター・トレック』監督に完全にダマされた!

Startrek11_01

 はい、みなさんこんばんわ。
 今回はほんまに、やられました。完全に欺されました、J・J・エイブラムス監督に。
 この人、プロモーションのたびに言いましたね。「僕はトレッキーではない」と。まあ、これが大嘘。脳天までドボドボに漬かったかなり濃密なトレッキーでしたね。大うそつきですね!

 あの言葉は言うなれば頑固一徹タイプのトレッキーのために張った“防御スクリーン”だったんですねえ。
 それどころか、間違いなくこれぞスター・トレックでしたよ。万一、千歩譲って言葉通りに彼がトレッキーでなかったとして、脚本家だけが濃厚なトレッキーというだけではああは描けません。すべてを指揮する監督が微に入り細に入って知り尽くしてなかったら描けないことだらけ。

 むしろ、これまで未解決だった部分を徹底的につじつまを合わせてしまったのには驚くと同時に「よおやってくれた!」と敬服してしまうばかりでした。
 …ということで、慣例を破りまして、内容に関して微に入り細に入り検証しこの監督がどれほどトレッキーなのかを論じたいと思います!そう、ご注意くださいね、ネタバレしてます!!

 正直言いましてね。
 もともとTOSは矛盾だらけなんですよ。TOSというのは、トレッキーの間で交わされる通称で『The Original Series』の略、つまり日本で言う、'69年にテレビ放映された『宇宙大作戦』のことなんですが、大勢の脚本家が参加し、限られた時間内で追われながら創ってゆかなければならないテレビシリーズのこと、全体の構成は生みの親であるジーン・ロッデンベリーが仕切っていたはずでも、やはり辻褄の合わないことや棚上げ式にしていた設定をあとでこじつけることになる。
 そうなると当然、つぎつぎと矛盾点が出ますよね。

 ファン、ようするにトレッキーの間ではそれを議論するのもまた楽しいわけですが、結局答えは出ないわけです、今さら是正できないから。

 やれるとしたら、文字通り完全な再構築しかない。このSTAR TREK11『スター・トレック』はそれをやってのけた勇気ある挑戦作であり、私の中では『バットマン・ビギンズ』や『バガボンド』と並ぶ、ベスト・アレンジング・リメイク作品の座につきました。

Startrek11_02

 いつものようにクドイのを承知で、TOSトレッキーでない方、オリジナルをご存じない方のためにそんな『是正点』を列挙してみましょう。なお、TOS以降のSTシリーズは考慮に入れていません。

■ハンガーデッキ内部
 1968年制作のテレビシリーズの場合は予算の都合上と当時の特撮技術の問題で、エンタープライズ号のハンガーデッキにはいつも一隻しかシャトルが出てきません。数ある劇場版でもシャトルは出てきたものの、ハンガーデッキの出番はなし。
 だけど船である以上、400名以上の乗組員を全員脱出させるだけのシャトルがないといけないわけ(でないとタイタニックになってしまう)ですが、今作でやっとそうしたカットがお目見え。冒頭のUSSケルビン号からの総員退艦シーンはまさにST歴史上でも初公開です。
 そしてなにより、エンタープライズのハンガーデッキ内部に何隻もシャトルがあったのを見て鬼気迫るシーンなのに「わっ♪」と喜び叫んだトレッキーは私だけではないはず。

 “総員退艦”というシチュエーションだけなら何度もあったんですが、転送装置を使って…ということになってるんですね。しかし一度でも宇宙大作戦をご覧になった方ならご存じのように、転送装置で一度に転送できるのは10人に満たない。
 無理。
 間に合わんのです。転送室もドアも狭いですし、そもそも孤立した宇宙空間では転送先がない。反対に真空の宇宙空間へ転送装置で危険物を棄てる話のほうが多いくらい。

■スクリーンが破れた後の船の周り
 …がどうなってるかも、ケルビン号が破損した時リアルに描かれていて、悲惨なシーンなのに、これも思わず感心しました。
 え?覚えてない?女性乗務員が宇宙へ吸い出されたあと、ふ、と音が消えますのよ。スクリーンなしの船外は真空だから。この当たり前のことをキチンと描いたSFは少ないのです。

■武装強化(標準化?)
 フェーザー砲、いくら威力があるにせよ、戦艦のクセにこれまで前後4門しかなかったんですよ。それが今回、まるで第二次大戦の巡洋艦並みの砲門の数には驚きましたし、撃ちまくる撃ちまくる。マクロスとまでは言いませんが、やっと“戦艦らしく”なったと思いました。
 そして光子魚雷。これも一発二発のチョロコイもんじゃない。ばんばん撃ちまくる。これでこそ宇宙戦艦ね。

■ハイポニードル
 そしてST名物、ドクターマッコイのハイポニードル(圧力注射)は本当に痛くないのか、という疑問はジムがさんざん証明してくれました。そしていくら未来でも、あんなにプスプス注射ばっかりしてて副作用とか“食い合わせ”は…という疑問も。
 しかもマッコイ、実はヤブ医者だったのか?天才と紙一重?考え合わせると、ありそうなだけに妙に納得してしまったなあ。

■バルカン人の論理と感情
 なによりもずっと疑問だったのがこれ。
 遙かな昔の部族間における全面的な大戦争で滅亡しかけた惑星バルカンは、スラクというひとりの賢人によって、民族丸ごとで感情を棄て論理のみで生きる事を選んだ事で救われた…というのがSF史上大変知られたバルカンの歴史の設定。
 しかし。喜怒哀楽を棄て、果たして論理のみで生きる事は可能なのか?
 表面的な事だけでなく、愛情も競争心も感情あってこそ存在できることではないのか?

 これが脚本家たちにとっても最大の課題であり、ライターとしての醍醐味でもあったようで、7年ごとに“繁殖期”を迎えるのだという設定、感情と論理の板挟みに悩むスポックの描写、太古に戻ったために先祖返りして論理性を失った野性味あふれるスポック…などなど、さまざまな展開を見せてきました。

 しかし、本当にヒューマノイド(人類)が論理だけで社会生活を送る事は可能なのか?

 この作品をちゃんと観るまで、もっとも気になったのは少年時代のスポックがバルカンの悪ガキどもにいじめられるという、あまりにも感情的かつ非論理的なシーン。
 実はこれがどうやら監督によるバルカン人解釈の答えとして描いたもののようで、要するにバルカン人は遺伝子レベルで感情を失った…つまり生まれつき感情がないのではなく、儒教のような一種の倫理的教義として、精神修養によって感情を表す事を最大の恥とする文化をバルカンの誇りとして世代を重ねてきたのだ…と言ってるように見受けられました。
 それがスポックの父・サレックの言葉でも裏書きされています。それなら修養のできていないガキはあんなだし、なるほど、と納得しましたが、そうなると今後のシリーズでは“サカリのついたスポック”の描写はなくなりそうですな。

■エンタープライズ操船コンソールの疑念も解決
 タッチパネルなのがずっと人間工学的にも納得いかなかったんですよね。「平時はともかく、戦闘時に絶対、誤操作するだろうに」と思っていた事にも回答が。ST11ではちゃんとスロットルレバーになってた。
 観てる方もトコトン細かく観てますが、それにちゃんと呼応できてる事に脅威さえ感じます。突っ込めないんですよ、この作品。ほとんど隙がない。

■地上で建造されるエンタープライズ
 予告編でひっかかってたんですが、よくよく考えればあれだけの大質量であんな姿の宇宙船が宇宙空間とはいえ自在に飛び回れるだけの耐性と柔剛性、そして飛翔能力を持ってるわけですから、たかが地球の1Gくらいでどうにかなるはずもないんですよねえ。
 それというのも、TOSの何話だったかで「エンタープライズは地上には降り立てない」みたいな会話があったのを記憶してて、素直だった昔の私はそれを鵜呑みにしてたんですよ。
 ちなみに後の時代設定で登場するUSS・ボイジャーはエンタープライズと同じような大きさの船で、ちゃんと着陸脚も持ってます。
 私らはオリジナルシリーズで結構「◯◯話でこう言ってしまってるから、たとえ矛盾していてもそうでないといけない」と“洗脳”されてるってことに気づきました。

 J・J・エイブラムスとそのスタッフはコロンブスの卵的発想でその壁を見事に打破し、ついにSF界でコペルニクス的転回をさせてしまった。

■タイムパラドックスを肯定
 これもSTのシリーズ全体を通してやたらあった矛盾なんですが、昔の仮面ライダーでよくあった、怪人を倒したら洗脳されてた町の人も元へ戻って大団円…みたいなノリで、これでちゃんと歴史の歯車が合ったなあ、的な話が多かったんですよ。
 過去の書き換えや並行宇宙の話もどんだけ出てきたことか。しかも大抵、お座なりな終わり方。
 だから今回もそうなんだろうと思ってただけに、「未来は変わってしまったんだ」で押し切ってしまった監督の思い切りの良さにも感心。これも“やられた”ことのひとつ。

 新しいSTにはバルカン星もロミュラン帝国もない世界になって、これからどーなっていくのやら。でもお願いだからボーグとケイゾンは出さないでほしいな。あれはいけません。どうも根拠に乏しいしつまらない。

■コバルト兄さん的なあとづけ兄弟の存在
 ───は、なさそうね。TOSではカークに兄さん、いたんですよ。とある星が攻撃されたか事故だかの報告の中だけで「亡くなった犠牲者の中に」いたらしいんですが、どーもそれほど悲しんでる様子もなかったんですよ。そういうとこ、TOSは妙に脚本が軽いんですよねえ。
 どーやらスポックのロンゲでフーテンな兄さんもいなさそうですな。みんな一人っ子のようで、よかったよかった。
 まあカークの息子や娘はあっちこっちにいてもヘンじゃないと思いますけどね。

■小林丸テスト合格だけで最新宇宙艦の艦長になれるものなのか?
 これも物語を見れば納得できる範疇になりました。バレないはずないし。スポックの方がうんと年上の筈だから試験官という設定もアリだし。パイク大佐もちゃんと尊敬できる年相応の人だった。

 それにしても旧シリーズのヘンなところをほんとに片っ端から是正してしまった。
 見事、あっぱれとしか褒める言葉がありません。

 ───というわけで、ST-TOSに無知な人ではこうした回答は絶対出てきません。
 それどころかむしろ知り尽くしている。
たぶん若い頃に他のトレッキーたちと激論を交わしたクチでしょう。そして知り尽くした上で彼流に疑問点をひとつひとつ是正している。

 なにをどうしても出せない回答に、問題を書き換えることで正解を“創って”しまったJ・J・エイブラムス監督。
 まさにカークがやってのけた『コバヤシマル』テストのまんま
に。あれは彼そのものだったんですね。

 それにしても…ああ。ほんまに欺されました。こんなうれしいサプライズは久々です。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

 ------------------------------------------------------------

 最後まで読んでくださってありがとうございます。ちなみに私───
▼▼日本ブログ村のランキングに参加中です。まあ、そこそこできた記事やんか、と思われたらクリックして温かい一票をお授けくださいませ。


|

« 『カールじいさんの空飛ぶ家』夢の映像化はリアリズムから | トップページ | 『カールじいさんの空飛ぶ家』鑑賞後用ver./実はすごく意味深 »

★★オススメCINEMA」カテゴリの記事

【SSF…Science, Space & Fantasy】」カテゴリの記事

【洋画:'01年以降】」カテゴリの記事

コメント

おじゃまします。私のブログの記事にコメントを頂きありがとうございました。
私はスター・トレックの事をごく表層的にしか知らないので、その事がこの映画の高評価につながったポイントのひとつだと勝手に思っていたのですが、こちらの記事を拝見する限りそうではなくて、コアな方のツボもばっちり突いた作品だったんですねコレ(こちらに書かれている意味は半分も分かりませんでしたが(^_^;))
ではまた来させていただきます。
私のブログでも頂いたコメントへの返事を書かせていただいております。宜しかったら読みに来てくださいね。
今後とも宜しくお願いいたします。

投稿: ピロEK | 2010年5月 1日 (土) 08:05

ピロEKさん、いらっしゃいませ!
くどい記事でゴメンナサイ( ̄▽ ̄lll) うちは基本がこんな調子でして。
まあ、機会があれば旧作もご覧になる事もあるでしょう。

リメイクにせよパロディにせよ、肝心なのは元ネタではなくてその作品の価値=出来映えだと思います。その点でもこの作品は見事でした。
オススメが基準のため、この映画ブログはなかなか記事が増えませんが、こんなノリでぼちぼちやっております。
こちらこそ今後ともよろしくお願いしますねー

投稿: よろ川長TOM | 2010年5月 1日 (土) 10:39

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1340266/33610153

この記事へのトラックバック一覧です: 『スター・トレック』監督に完全にダマされた!:

« 『カールじいさんの空飛ぶ家』夢の映像化はリアリズムから | トップページ | 『カールじいさんの空飛ぶ家』鑑賞後用ver./実はすごく意味深 »