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2009年10月26日 (月)

『酔画仙』求道に生き、殉じた画家の生涯。

Chuifason00
 はい、みなさんこんにちわ。
 この映画の公開は2005年。でもその存在を知ったのが2002年、韓国のサイトを見つけたのが最初でした。そして待つこと3年、ようやくこの映画を観ることができました。
 今でこそ“世界同時公開”なんてスタイルがありますが、昔の映画は何年もインターバルを経てから日本で公開されることも多かったことを思えば三年くらいどうってことないんですが、なにせ韓国でもマイナーな扱いだったようなので、もう来ないんじゃないかと諦めかけていた作品でした。

 その間にこの作品、いつの間にかカンヌ映画祭で韓国映画で初めて監督賞を受けていましたが、今回日本での公開は関東から順次地方へとマタタビ公開のうえにこれといって宣伝もしていなかったために、よほどの韓国映画ファンしかしらないような状態だったので、筆者が観た大阪では初日にも関わらず20人ほどしかいませんでしたよ。

 とはいえ、筆者が三年間焦がれて待っていただけの値打ちのある作品だったことは確かです。


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 物語は19世紀、まもなく朝鮮半島の混乱に乗じた清国や日本帝国軍が侵略を開始しようとする、まさにその数十年前。
 主人公チャン・スンオプは、貧民の出身ながら持って生まれた絵の才能を徳の高い人物に見いだされながら開花してゆくが、あまりにも天衣無縫で磊落(らいらく)なその性格と、天才なればこそその才能との葛藤に苦しみながら激動の時代を生き抜いて行く彼の半生を描きます。

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 主演は、日本に最初の韓国映画ブームをもたらした99年の『シュリ』で、すざまじいほどの存在感の北朝鮮部隊長役を演じたチェ・ミンシク。公開の順番は逆転してしまいましたが、2003年主演作品『オールドボーイ』は2004年のカンヌでついにグランプリを獲得する快挙も、やはり彼の主演あればこそと筆者は確信しています。

 共演には韓国の国民俳優と呼ばれ、代表作は『チルスとマンス』『ピアノを弾く大統領』『シルミド』『MUSA』と数え上げたらキリのないアン・ソンギ。

 そしてこの作品が初の映画出演となり、その後ドラマでは『夏の香り』映画『ラブ・ストーリー』『永遠の片想い』『私の頭の中の消しゴム』そしてヨン様との共演で話題沸騰の『四月の雨(原題:外出)』といまやメキメキと頭角を現す清楚な女優ソン・イェジン。ほんのちょっとしか出てこないんですが、ファンのひいき目をさっ引いてもかなりの存在感。

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 監督は昨今の若い新世代が跋扈(ばっこ)する韓国映画界で40年以上も力作を残してきた巨匠イム・グォンテク。
 代表作には『太白山脈』『春香伝』などがありますが、いずれもエンターテインメント映画と言うよりも芸術性の高い作品です。
 とくに『春香伝』とその前の作品である『風の丘を越えて』は朝鮮半島究極の謡曲伝統芸能ともいえる“パンソリ”を扱った韓国ならではの作品。なかでも『春香伝(チュンヒョンジョン)』は韓国では知らぬ者のないラブストーリーの古典であり、それはそのままパンソリ作品として伝えられてきたものです。

 しかしパンソリとはなんぞや、と問われても、説明するのはあまりにも難しい。
 朝鮮半島伝統の民族音楽だとか、魂を歌い上げる精神性の高い一種の浪曲のようなもの…などとありきたりのカテゴリーでの説明では、とうてい日本人に理解などできそうにありません。

 監督はそれらの作品でパンソリという“音”をいかに映像にするかということに心を砕いたと仰ってましたが、今回の『酔画仙』で挑戦されたのは“東洋画”。
 その韓国版公式サイトも全面的にそのことを表現した優れたものですが、一枚の画仙紙に向かい下書きもないまま“気”の高まりを待って一心不乱に迷うことなく一気に筆を走らせて行くその製作法は、西洋画では絶対にありえない独特のものであると同時に、たいへん精神性の高い画法です。

 もともと無彩色が基本である東洋・水墨画は、墨の濃淡やそれに当たる光の加減、また観る人の経験や記憶がそれに重なることで描かれたもの以上の表現を見せる“魔法の”画。
 それを見事に映像に焼き付けた監督とスタッフの技量には感動ものです。

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 そして見どころはなんといっても、偏屈な芸術家ならではの鬼気迫る製作風景、ときに悪ガキのようにハチャメチャな男でもある主人公チャン・スンオプを演じるチェ・ミンシクの演技は、この時をしてすでに世界を唸らせる実力派であり、彼の持つ常にじっと何かを見据える黒曜石のような瞳に宿る温かさ・やさしさのようなものが一見狂気的な行動の時でさえもどこか哀しいような、何かを請い願うかのような味わいを醸しているように思えてなりません。

 さらにまたスンオプの生涯を通じて精神面で彼を支える役柄のアン・ソンギの、年齢を重ねるにつれ気高さと気品を兼ね備えた演技は、ときに展開を急ぎすぎるかと思うほどの速いテンポの物語にえも言えぬゆるやかな河の流れのようななごみを与えています。

 酒と女を愛し、芸術というよりは自分の生き方を見つめ続けて生きた、わずか55年のチャン・スンオプの生涯。
 ときに暴発し、ときに限りなく落ち込む彼の姿は、実は天才でもなんでもなくて、現代を普通に生きる我々とオーバーラップしてゆくのです。

 やがて彼が自分の中に、そしてその未来に見いだすものは何か。何だったのかは、皆さんご自身でご覧頂いてお考えくださいね。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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【韓国・アジア映画】」カテゴリの記事

コメント

TBありがとうございます。
この映画は『オールドボーイ』よりも先に見てしまったので、出来ればもう一度観たいです。

投稿: kossy | 2005年3月28日 (月) 12:56

gantakurin@「シネまだん」です。
TBありがとうございました!
確かに待ちました。
ソン・イェジンちゃん、もう少し登場するかと思ったのですが、
ちょっとだけで残念です。

投稿: gantakurin | 2005年3月28日 (月) 17:47

TBありがとうございます。
動乱の時代の奔放な男を熱演するチェ・ミンシクが凄かったです。
画に講釈をつけようとする輩を馬鹿にするのが気持ちよかったです。
いつの時代も芸術に講釈を垂れるのは居るものなのですね。

投稿: 健太郎 | 2005年3月29日 (火) 01:37

*みなさま、コメント&トラバありがとうございます。m(__)m

健太郎さま:韓国映画を見るたび思うのは、本当に儒教社会の根は深いんだな、ということ。秩序が保たれるのはいいけど、あからさまな差別につながってるのがそのまんま彼らの上昇志向になってるのも皮肉ですよね。

gantakurinさま:それでもイェジンちゃんは輝いていました!とくにつぶらな瞳がタマラン…

kossyさま:チェ・ミンシク氏、このあとボクシング映画を撮影して、アバラが折れてるのに今イ・ヨンエと新作映画『親切なグムジャさん』撮ってますからねえ。おそるべき役者根性です。

投稿: よろ川長TOM | 2005年3月29日 (火) 11:01

韓国の俳優さんは体が大きくしっかりとした骨格で、見ていてとても安心感があります。
武道のような東洋画の世界と、才能ある芸術家ゆえの葛藤。とても見応えがあり、美しい映像に陶酔しました。チェ・ミンシクも味があって本当にいい役者さんですね。彼のラブストーリーが観てみたいです。

投稿: bakabros | 2005年9月20日 (火) 20:22

ソン・イェジン、、、表紙にデカデカと
写っているのに出演時間はわずかでしたねぇ。
チェ・ミンシク大好きなので、しかもソン・イェジンとの共演だったので、楽しみにして観たのですが、、、。
韓国の歴史を知らないボクには少し難しかったですねぇ。

投稿: あっしゅ | 2006年8月 8日 (火) 10:36

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