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2009年6月14日 (日)

『あなただけ今晩は』人生は少し哀しいからこそ可笑しい。

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 はい、みなさんコンバンワ。あなた、一番好きな映画はどれで、何回ご覧になりました?
 私はなんといってもこれ、『あなただけ今晩は』。たぶん40回以上は観てると思いますが、古い映画なんで映画館では観た事ありません。一番多く観たのはやっぱり淀川先生の日曜洋画劇場とそれを録画したビデオ。レーザーディスクも持っているんですが、私ね、この頃の作品はどうしても吹き替えの方が好きなんですよ。
 いい役者さんばかりで、吹き替えの演出もお芝居も、もちろん翻訳も最高にオシャレでうまかったから。

 さあ、お話しさせてください。有名な映画ですけど、肝心な事は黙ってますから最後までお付き合いくださいね。

 私の大、大、大、大、大好きな大好きな映画、ベスト5の一本がこれ。コメディではベスト1。俳優も監督もベスト1。この映画について話し出したら、もう止まりませんよ。覚悟してお読みくださいね。え、ただでさえクドイのにもっとクドイのなら読みたくない?
 まあまあ、そお言わずに。それほどこの映画は良くできているんです。
 ネタバレ無しにえんえんと長いお話しても、ね。

 ペーソスって言葉、とんと聞かなくなりましたね。今の映画でもコメディは色々ありますけど、笑いに厚みがないのはそうした悲哀、必死に生きていく人間のどうにもならない部分をサラっと嫌味なく描ける手腕を持った脚本家、そして演じられる俳優が少なくなったせいでしょう。
 俳優ジャック・レモンを語るとき絶対外せないキーワードがこの“ペーソス”。

 ペーソスとは悲哀と訳されることが多いですが、そんな難しいものじゃなく、切なく情けな~い感じなんですよ。代表格は無声時代のチャップリン。
 貧乏で、仕事もなくて、だけど自分ではどうしようもないの。あるのは日々の中のささやかな楽しみと、歯を食いしばって耐え続けることで見えてくる僅かな希望の光。

 ジャック・レモンの場合、もっともっと時代が下るのでペーソスは生活苦ではなくもっぱら『恋』。それも大好きな大好きな女性がいて、それほど悪くない雰囲気なのにあと一歩が踏み出せない。
 そんなシチュエーションなら今の恋愛映画だってよくあるんですが、その原因が自分の側にあるんですね。大好きな女の子をちゃんと幸せにしてあげられない情けなさ。だからがんばるんですが、がんばってもがんばっても、どうにもならない壁が立ちはだかってる。
 観ている方はこのもどかしさ、彼のジダンダ踏みたい気持ちが痛いほど解るからたまらなく切ない。
 さてそういう意地悪な意地悪なシナリオを考えるのがものすごく上手いのが、この映画を始めジャック・レモンと前作『アパートの鍵貸します』でもタッグを組んだ名匠ビリー・ワイルダー監督。
 しかし切ないだのペーソスだのと書きましたが、実際ご覧になると爆笑、爆笑、また爆笑。
 僅かな塩味が甘みを強調するように、ペーソスが可笑しさを倍増させるのです。

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 物語は。

 花の都パリに赴任して来た若き警官ネスター。
 警官に袖の下なんて当たり前な風潮の大都会で、彼はたった一個のりんごでもちゃんとお金を払うほど真面目で馬鹿正直。
 そんな彼、たまたまとある街角で見かけた娘、イルマに一目惚れ。
 しかしおりしもそこはパリでも名うての娼婦街。もちろん法的にはヤバイんですが、そこはそれ、お上も見て見ぬフリの裏社会の仕組み。
 しかしカタブツのネスターはそうはいかない。護送車まで呼んであっという間に娼婦も客もまるごと逮捕してしまう。
 ところが客に警察署長もいて、一緒に捕まえてしまったことから彼の人生は急転直下───
 真面目が裏目に出て職を失ったあわれネスターでしたが、純情な彼にホロリとなったイルマにヤキモチを焼いたヒモのヒポリートにからまれた挙げ句、弱っちい癖に酒場でやけくその大喧嘩。そしてどんどん彼の人生は妙な方向へ転がって行く───

 どうです、これだけでもウントコ面白そうでしょ?彼が一目惚れする娘の娼婦街での通り名が、この映画の原題『イルマ・ラ・ドゥーシェ(IRMA la DOUCE)』。
 可愛いイルマ、とか訳されますが、私としては劇中の台詞で使われてる“ネンネのイルマ”のほうが相応しいと思うんですよね。演じているのが最新作では伝説のデザイナー、ココ・シャネルの晩年を演じていま話題沸騰のシャーリー・マクレーン。

 『アパートの鍵貸します』ではエレベーターガールとはいえ、大商社に務める都会のレディを演じていましたが、今回は無学なコールガールの役。
 いっぽう、ジャック・レモンのほうも前作では上司に自分の部屋をラブホがわりに貸すことで会社での便宜を図らせるちゃっかり社員だったのが、今回は哀しいぐらいくそ真面目。こういう所がいかにもビリー・ワイルダー監督ならではのへその曲がり方なんですねえ。

 しかし彼の意地悪、へそまがりはそんな程度では納まらない。

 純情男が恋をした相手はなんとコールガール。しかも彼女のモットーは、愛する男をカッコ良くすること、そのために“がんばって働く”こと。ということは、つまり───。
 こんな切なくて酷いシチュエーションってあるでしょうか。

 ここに、赴任した日以来の腐れ縁になった酒場のマスターが出張ってくる。ハゲでずんぐりむっくりな口ひげの親父。このオッサンの存在こそがこの映画の肝になっておりまして、同時にすばらしい狂言廻しになっております。
 演じているのはルー・ジャコビ。
 彼が演じるムスターシュ(つまりヒゲ親父って名前)のクチからこぼれる昔話をつなぎ合わせるだけでもちょっとしたヨーロッパ史になるという怪人物。しかも“ヒゲ親父”と呼ばれるだけで本名は出てきません。嬉しいくらいに怪しいじゃないですか。

 そして観客が彼の過去談で「え、何それ、アンタ何してたの、いったい何者!?」と耳を傾けようとすると必ず最後に「いや、これはまた別の話」って一方的に切ってしまう。これもワイルダー流の意地悪の一つなんですねえ。

 余談ですが脚本家の三谷幸喜氏もかの監督をいたく尊敬しているのは今では周知のことですが、彼のテレビドラマ『王様のレストラン』ではふんだんに今作の引用とまんまパクリが出てきて「ここまでやっていいのか」と驚いた記憶があります。また、彼の書くドラマによく登場する、“水の入った洗面器を頭の上にのせた人物”の小話は、絶対に結末が出てこないところもどうやらムスターシュのこのノリを真似ているようですね。

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 そんなムスターシュのバックアップでネスターはけったいな手段を実行に移します。
 それは───。おっとっと…いけない、いけない。

 いや、別に私もマスターシュのマネをするわけではありませんよ。ヒゲはあるけど、まだ禿げていませんし。
 もちろんそれを言っても面白さは変わりませんが、初めて観る人からその楽しみを奪うわけにはいきません。
 でも観て欲しいのは、楽しんで欲しいのはその登場プロセス。
 ムスターシュの酒場には地下倉庫があって、搬入搬出のためにリフトが備わっているんですが、どういうわけかそれが店の外にある。これが当時のパリでは当たり前なのかどうかは知りませんが、まるで歌舞伎のせり上がりのような使われ方をするんですね。
 作品は1963年制作なんですが、まるで気分はサンダーバードの出撃シーン。フツーの監督なら人目を忍んでこっそりと登場させそうなものなんですが、このお茶目さが余人にマネのできないところ。

 え?なんのことか分からない?だから、ご覧なさいって。アッハッハ!って判りますから。

 しかしもっと驚くことは、このリフトどころか、冒頭に映し出されるエッフェル塔以外のすべてはオープンセットとして作られた、ということ。
 カサノバ通りの娼婦街も広大なパリ中央市場もなにもかも。これ、今みたいな大作主義ならともかくも、よくこの当時こんな企画が通ったものです。『乱』でお城一つ燃やしてしまった黒澤明監督も顔負けです。…まあ、もっとも野菜や魚のほとんどは作り物だったそうですけど。

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 そしてこの市場、作中で大活躍します。テンポのいいB.G.M.と相まって可笑しいやら哀しいやら。何がって?それもこれも、み~んなご覧になってくださいな。ここで話してしまうなんてもったいなさすぎますから。
 もう、画面のスミズミまできょろきょろしてご覧なさい。
 録画できるなら何度も何度もご覧なさい。スキがありませんよ、このセット。どんなわずかなカットはもちろん、画面のハシにでも、ちゃあんと“パリの市場”が描かれています。

 最初に申し上げたように、私がこの作品を最も観たのは日曜洋画劇場───つまり吹き替え版なのです。
 吹き替え版はたぶん版権の関係で、もう滅多にお目にかかれないんでしょうが、本来ジャック・レモンの声は愛川欽也さん、シャーリー・マクレーンは小原乃梨子さんの黄金の定番コンビ。
 そしてマスターシュは富田耕生さん。もう、この組合せ以外ありえない。

 ジャック・レモンは大体の作品で自分のことを「ぼかぁね」って言うんですよ、愛川さんの吹き替えでは。
 英語ではもちろん「I」とか「My」「Me」なんで、訳としては俺でも私でもいいんですが、ジャック・レモンの演じる役柄の場合は「僕」でないとしっくり来ない。
 また愛川さんの声は微妙なしゃがれ具合といい早口のテンポといいジャック・レモンの声に本当によく似ているんですよ。昔は吹き替えの俳優さんを物色する時、声だけでなく骨格的にも似たヒトを選んだのだそうですが、それにしてもほんとにピッタリ。

 そして小原乃梨子さんのシャーリー・マクレーンの可愛いこと。
 『ローマの休日』のDVD版は池田昌子さんと城達也さんによる奇跡とも言えるオリジナルキャストの吹き替えでしたが、『あなただけ~』のDVD版ってどうだったんだろう。残念ながらウチにあるのはレーザーディスク字幕版と、テレビからの吹き替えだけどカット有りの録画版のみなので、そんな気の利いた見方はできないんですが、もしそうなら絶対“買い”ですよ。
 とくにマスターシュの決めぜりふ?「こりゃまた、別な話。」がとにかく効いているのです。

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 実はこのお話、大好きな娘のためにかっこ悪くてもみっともなくても必死にがんばるネスターの奮闘ぶりを描く熱血純情恋愛ドラマなんですよ。ぜひ笑いながら応援して欲しいものです。

 最後に、この映画で私が最も好きな台詞をご紹介しますね。
 はじめて彼女の部屋に転がり込んだネスターが、素顔のイルマを見てぽろりとこぼすひとこと───

「…はじめて君を見たとき、可愛いなぁと思ったけど、まちがってた…君って、綺麗なんだね」

 キザだなんて野暮なこと言わないでくださいね。でも、じつは男って誰でも、好きになった女性のことを必ずそう思うんですよ。
 女性たち、心してご覧くださいよ。この映画は、今はめったに描かれなくなった男の純情の永久保存サンプルでもあるのですから。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

今日、BSで初めて観ました。
『アパートの鍵貸します』は大好きなのですが、
この映画のことは知らないでいました。
いやぁ、素晴らしい。
なにもかも素晴らしい映画です。
そしてシャーリー・マクレーン!
彼女の魅力が映画にあふれてますね。
機会があったら吹き替え版も観たいなあ。

投稿: ぱる | 2009年6月23日 (火) 16:06

ぱるさん、いらっしゃいませ!!
うわあ、嬉しいなあ!ひとりでもこの作品を好きになってくださる方が増えたと思うだけでメチャメチャはっぴーですよ。
しっかり録画したので今週末、皿に焼きながらじっくり楽しみたいと思っています。

吹き替え版、ほんとに素敵ですよ。ご覧になれることを祈っております。
これからもよろしくです~~~!

投稿: よろ川長TOM | 2009年6月24日 (水) 02:42

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