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2008年10月 9日 (木)

緒形 拳。執念の男を数々演じきった名優、逝く。

ken_ogata05.jpg はい、皆さんこんばんわ。ご存じのように去る10月5日、緒形 拳さんが他界されました。
 享年71歳。まだまだ早すぎる旅立ちでしたねえ。

 インタビュー番組での拳さんはいつもニコニコされてて、でもどこかしら照れ臭そうで。シャイなオーラがなんとも魅力的で。
 そのくせ、ぽつりと語る言葉は実にウィットに富んでいて、さらになんとなくですが、うっすらと毒もあって、その塩梅が実にいい。
 まったりしているのにピリッと来る。刺激的なのに上品。黒胡椒をまぶした熟成の進んだ上等のチーズみたい。

 大好きな、大好きな俳優さんでした。どんな作品か判らなくても、この人が出てるなら観ようかな。そう思わせてくれる数少ない俳優さんでした。
 今年は偉大な俳優が次々に彼岸へ逝かれてしまいますが、今宵は“拳さん”の映画話をさせていただきますね。

(以後、文中敬称略)


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 私は“ケンさん”と呼ばれる三人の俳優が大好きです。
 高倉 健、渡辺 謙、そして緒形 拳。
 たまたま文字は違いますが、いずれも男臭く、骨太で、年齢を重ねれば重ねるほどにますます味わい深い厚みで魅せてくれる役者さんたちです。───なかでも、緒形 拳さんはあえて『執念の役者』と呼ばせて頂く事をお許し願いたい。

 とにかくワルいんです。この人の演じる男たちは。それも安物の悪党じゃなく、とてつもなく人物がでかくて腹黒い役柄の多いこと。また、それが似合うんですねぇ、ニクイくらいに。
 もちろん私の親と変わらない年齢なので、テレビの出演作でも再放送も望めないほど昔の作品は知りませんが、彼の演じた“悪い漢”をざっと思い出してみると───。

 秀吉、家康、蘇我馬子、大石内蔵助、尼子経久…志は高いけど、みんな腹にイチモツある人物ばっかし。いずれもスケールがデカくて敵将さえも飲み込んでしまうほどの度量や魅力がある。でも目的のためなら平気で裏切る冷徹さも兼ね備えている。
 ただ腹黒い大人物を演じる名優なら他にもおられますが、緒形拳の演じる男たちはみな、強い執念で目的を貫き通しますね。
 だからたとえ戦に負けようと、生命を落とそうとも目的は果たして晴れ晴れと死んでいく。よい例が大石内蔵助。

 そして貫禄。存在のオーラですね。そこに凛として居るだけで空気がピリリと引き締まる。最近でもNHK大河『風林火山』で上杉の謀将、宇佐美定満を演じておられましたが、戦国武将に憧れる身としては、登場するだけで嬉しかったですねえ。
 なにせ貫禄ある人だけに、そんな彼をして首を垂れてかしずく謙信とはどれほどの人物だったのかが見事に浮き彫りになる。謙信役のGacktが見事に映えること映えること。

 そのくせ、どこか人間くさい。笑うときは目尻をしわだらけにして、でかいクチでニカッと笑う。すると、とろけそうに人なつっこい顔になる。
 豊臣秀吉が木下籐吉郎だった頃…というのは『仮面の忍者 赤影』のOPですが、まさにそのころの秀吉、関白になるまでの秀吉はそういう人柄だった…と司馬遼太郎先生も書かれていましたねえ。

 まさに緒形拳ならではというか、それが緒形拳という人そのものという気さえします。

ken_ogata02.jpg

 そして緒形拳、とにかく『ヘンクツ』『変人』が似合う似合う。
 いくら実在の人物とはいえ、あまりに非現実的なありえない変人でも、緒形拳が演じるとあまりの説得力に「へえー、こんなひとがいたのか」と納得してしまう。
 その好例が北大路魯山人。私なんてドラマを一回観ただけなのに、某骨董品鑑定番組で“魯山人作の皿”とか聴くと、緒形拳が粘土をひねっている姿が目に浮かぶ始末。
 そうした孤高の芸術家肌が似合うからでしょう、葛飾北斎も演じてますね。紙一重の天才というのは一種の狂気を伴っているものですが、それもまさに道を追求する執念のなせる技でしょう。

 85年のNHKのスペシャルドラマ『破獄』では、自由への執念を見せてくれました。
 当時あまりの過酷さに入ったら最後、死刑よりも厳しい処置と言われた網走監獄を、知恵と行動力と執念で何度も脱走した実在の人物を演じたのですが、台詞もほとんどなく、ひたすらその行動だけで全てを語ってゆく凄まじさは観るものを黙らせてしまいます。個人的にはマックイーンの『大脱走』より好きな作品です。
 昨年でしたか、NHKアーカイブスで20年ぶりくらいに観たんですが、やはり鬼気迫る演技がすごかった。どうやらDVDはあるようなので、未見の方、必見です。
 共演の津川雅彦演じる刑務所の刑務官がまた素晴らしい。語り部の役割もあるため彼のモノローグで仕立てられているわけですが、無口な緒形拳とのコントラストがまた見事。
 後年、『ミラーを拭く男』でも無口な緒形拳とおしゃべりな津川雅彦の対比になっていたのが妙に可笑しい。ある意味、実際のおふたりの姿でもあるようでそれもまた面白いですが、はたして梶田征則監督は『破獄』を意識されてのキャスティングだったのかも。

 そうそう、『あつもの』も変わってましたねえ。あつものって解りますか?しゃんと立った背の高い鉢植えで、ハンドボールくらいに大きな大きな菊の花をご覧になった事あるでしょう。
 そういう菊を育てる事に懸命な初老の男がいます。真面目な真面目な男。それがひょんなことから援助交際の女学生と絡んでいって、そのために人生が狂ってゆくんですね。エロ系の演技も生々しい事この上なしで、子供の頃は「えらいもんをみてしもた」とビビりました。

 とはいえ、俳優・緒形拳をカッコいいなあと意識したのは『必殺仕掛人』の藤枝梅安から。当時私は小学校の六年生くらい。

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 原作の表紙も、あきらかに緒形拳。原作者の池波正太郎はこのシリーズが絶筆になりました。

 “必殺”はのちにマンネリ時代劇そのものになって大嫌いなシリーズになってしまったけど、第一作の『仕掛人』は池波正太郎の原作を大きくアレンジしていながらも、個性派俳優たちのギラギラした持ち味とアクの強さで、すばらしいエンターテインメント作品になったと思っています。
 なかでもやはりニヒルな拳さんの梅安と、林与一演じるクールな西村左内のコントラストが素晴らしかった。
 一応は“世のためにならない悪人を闇に葬る”のが建て前ですが、所詮はカネのために人を殺す稼業にどんな理由と美学を求めるか…なんですが、ガキンチョながらその渋さに惚れてしまいました。あー、でもこれも結構エロシーンあったような記憶が…
 ちなみに最初のルパン三世(つまり渋くて大人向けの)が放送されたのも同時期でした。
 たまたまのちに渡辺“謙”が原作に忠実な梅安を演じていますが、緒形さんバージョンも観てみたかったですねえ。

 主演の時は当然としても、脇に廻ったら廻ったで、とにかく強烈な印象を残す人で。

 他の役者を喰うというタイプではないんですが、結果的に記憶に焼き付いてしまう。たとえば『砂の器』は丹波哲朗と森田健作が主演なんですが、物語が進むにつれてクローズアップされてゆくのが緒形拳演じるひとりの警官の存在。
 彼が登場するシーンは丹波と森田が警察本部で報告する中の、いわば回想シーンのためロングショットが多く、場合によってはシルエットみたいな扱いなのに、あとで思い出そうとするとまるで彼が主役の映画だったような印象さえ残っているんです。
 中年から老け役までこなす、なんてことはそれまでもされてるんですが、あまりに自然で違和感が全くない。
 まあ、今の高解像度な再生条件のTV等で観るとたしかにメイクなんですが、劇場で一緒にリバイバルを観た友人などは年齢ごとに別の人が演じていたと信じ込んでいたほど。

ken_ogata04.jpg

 あと、緒形拳がよく演じたもう一つの顔は、ぼくとつな農民・庶民階層の役。
 三船敏郎の『風林火山』では山本勘助に付き従うひょうきんな足軽、『八甲田山』では最後まで生き残った真面目な中年の兵士、楢山節考での陰気な息子、『ミラーを拭く男』の老人。
 思い出せばとにかく無口な役柄が巧い。四角い顔にまっすぐクチを引き結んでひたすら黙々となにかしている姿が似合う。
 なぜか懐かしいので理由をよく考えてみれば、私の明治生まれの祖父がそういう人だったんですね。
 だからよけいに緒形拳の演じる男たちの背中に懐かしさを感じるのかも知れません。

 そうそう、大事な事を思い出しました。
 この人、ひとを殴る芝居がすごく巧い。パンチじゃない。芸名の通り、コブシでこう、ボカッといくんですね。いや、違うなあ。標準語では伝わりにくいですね。大阪弁で言うところの“ゲンコでどつく”というのが一番ぴったりくる。
 さあ殴るぞと狙ってくるのではなく、生意気な口答えをしたときに「なにぃ!」と反動的に「ゴンっ」と上からくる、鈍くてじんわり痛くなってくる昭和のオヤジ独特の殴り方。しかも避けたりかばったりするとさらに数回ゲンコが落ちてくる。で、やっぱりクチは真一文字に結んでて。
 痛いからとアタマをかばうと今度は足で蹴倒される。それが意外なほど素早いからよけられない───

『鬼畜』での役柄なんか、今で言うDVの人でなしオヤジの役ですが、暴力を振るう彼があまりにハマりすぎて怖かった。(でも本当は…ご自身でご覧くださいね。)
 今にして思えば、北野武が自作のバイオレンス映画で見せる容赦のない攻撃性はこのへんの緒形拳に近いように思います。
 違いと言えば、北野武は眼がまるで死んだ魚みたいなゾンビ系なのに対して、緒形拳はギラギラした肉食系野獣のそれだった事。
 まあ、無感情と凶暴、どっちも怖いことには違いないんですけどね…とか書きながら色々調べていたら、未見ですが、火曜サスペンス劇場では北野武バージョンの『鬼畜』があったようで。

 アクのカタマリみたいなふたりの存在。誰しも考える事は同じという事でしょうね。

 ああ。でも、もう先達の偉大な俳優たちのように、もう旧作でしかお目にかかれない。あの懐かしくも暖かなナレーションも聴く事ができないんですね。

ken_ogata01.jpg

 執念に生きる男を演じさせたら世界一の偉大なる役者、緒形拳。まさに孤高の侍のような男でした。そして父親を幼くして亡くした私には憧れのオヤジでもありました。…ちょっと、こわかったですけどね。

 ───どうか、やすらかに。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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 最後まで読んでくださってありがとうございます。ちなみに私───
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コメント

早すぎますよね~,71歳。
わたしも,拳さん大好きでした。
『破獄』は今でも印象に残ってます。
それと「復讐するは我にあり」とか・・・
「砂の器」も「鬼畜」も・・・
このひとの演じる悪人は天下一品でしたね。
息子さんもいい俳優さんになりましたが
やはり父親を超えることはちと無理かもしれませんね。
それほど偉大な俳優さんでした。合掌。

投稿: なな | 2008年10月 9日 (木) 23:33

えいさん、いらっしゃいませ。
いや~、力作と言うよりもとりとめがないというべきか。
あまりにも脳裏をよぎる事柄が多すぎて、しかも早くアップしたいとの想いがあって、こんな有様になってしまいました。

緒形こぶし!これにはコケましたね~~~。たまたまニュースの中で紹介された『徹子の部屋』でそれをおっしゃってたのを見たんです。
その『徹子の部屋』も再放送されるようなのでチェックしたいと思っています。…ちょっと辛いけど。

ななさん、いらっしゃいませ!
その『破獄』がまた観られるんですよ。息子さん…うーん。フツーの人ですから…
こういうとなんですが、『信長』の時に格の違いが出ましたね…二世役者、縁類役者ってたくさんいますけど、役者の味の出し方というのは『覚悟』如何に掛かってるのではないかな…って、藤山直美とか中井貴一などを見ていると思いますね。

投稿: よろ川長TOM | 2008年10月10日 (金) 00:38

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