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2007年10月24日 (水)

『フライボーイズ(Flyboys)』何かを求めて異国の空に戦いを挑んだ若者たちの未来は…?

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 はい、ついに、ついに『フライボーイズ』日本公開です!以前アメリカでの公開直後に期待作として記事にしたのはなんと2006年8月のこと。まあまあ、1年2ヶ月、たんと待ちましたね。でもこれくらいならヨシとしましょう。
 あいにく日本語翻訳付の公開版試写には行けそうにないので、アメリカで発売されているオリジナルを気合いだけで無理矢理観ましたから、台詞とかの深読みまではできていませんが、ヒコーキ映画好きならではの視点でのお話はできるかなと思います。

 さあさあ、どんな仕上がりになったでしょうね!
 


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 前回書かせていただいた記事では第一次世界大戦という、今では“忘れられた大戦”と、複葉機というクラシック・プレーンのことをお話しさせていただきましたので、今回は本編について。───といってもネタバレになってはいけないので注意しておきますね。

 お話は…1917年、第一次世界大戦が勃発してはや3年。騎馬とライフル銃と白兵戦ばかりで膠着状態になった戦場に、いよいよ連発式機関銃や戦車に潜水艦、そして航空兵器が登場して一気に戦争は兵器の開発合戦の様相を呈してきた頃。
 全土が戦争状態でどこにも逃げ場が無くなりつつあるヨーロッパに対して、まったく対岸の火事状態だったアメリカは平和そのもの…どころか、実は戦争特需景気で繁栄の頂点へ向かっている真っ最中。
 やがて十年ほどの後に大恐慌を迎えることになるんですがこれはまた別な話。

 そのアメリカの、テキサス・アバディーンというド田舎では土地を差し押さえられ州外退去を通告されて途方に暮れる青年がひとり。
 それがジェームズ・フランコ演じる主人公ブライアン・ローリングスなんですが、これからどうすべえ…と考えても、やることもないんでニュース映画を見に来ている。
 そこで彼が眼にしたものはヨーロッパ戦線での悲惨な現状…やがて彼はそこに何かを求めて渦中へ飛び込もうと決心します。
 やがてパリ郊外のバーデンにあるラファイエット航空隊基地に、理由こそ様々ですがブライアンと同じく航空隊を志願した数人の若者たちが整列します。

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 といってもパイロットどころか飛行機に乗ったこともなく、ましてフランス語ができるのは黒人の元ボクサーひとりだけという始末。あるのはやる気と崇高な意志のみ。
 そこへ掃討任務からマーチン・ヘンダーソン演じる部隊長が帰還する。アメリカ人パイロットとしても先輩格なのですが、ペットにウイスキーという名のライオンを飼い、どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせています。
 それもそのはず、これまでもラファイエット航空隊には幾人もパイロット志願の若者がやってきましたが、誰ひとり長くは生きていなかった事から培われた厭世観だったんですね。

 そしてズブの素人を一人前の戦闘機乗りにするための試練が始まる───
 正直、有名どころは『スパイダーマン』シリーズで一躍知名度を上げた主演のジェームズ・フランコと、セノー大尉役のジャン・レノくらいなんですね。
 パイロットを演じる他の俳優たちもいまひとつ。味がある、上手いというわけでもなく、それほどキャラクターとして掘り下げてないし個性的に描かれているわけでもない。

 唯一、J・フランコの相手役で淡い恋人関係になるフランス娘ルシエンヌを演じたジェニファー・デッカーがすごくいい雰囲気を持った女優さんです。

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 Jennifer Decker、ちょっと調べてみると1983年生まれの24歳、2006年の『FLYBOYS』を加えてすでに10本も映画に出演、2007年は『HellPhone』という大学を舞台にしたオカルトもの?さらに2008年にも『Lulu und Jimi』という新作が控えています。もちろんフランスの女優さんで、どうやらテレビのシリーズものに子役から出演していたらしいので、すでに13年ものキャリアがあるベテランさんなんですね。
 “いかにもアメリカ人が恋しそうなフランス娘”というかわいらしい雰囲気のルシエンヌ。第二次大戦でもそうなんですが、どうもアメリカ男性というのは伝統的にフランス娘に弱いらしく、過去の戦争映画でも似た構図があちこちに出てきます。
 彼女、出てくるシーンごとに印象が変わるんですね。最初は怪我したブライアンを治療するときに見せる営業スマイル、誰かは知らないものの戦いにおもむく飛行隊を見上げて数を数え、戻ってきた数を数えたときに見せる沈痛な表情、ブライアンにうちとけたあとの輝くような笑顔、ドイツ軍から逃げるときの気丈な顔つき、そして束の間の再会時の不安と悲しみ…
 実に上手いですね。いま流行のツンデレではないですが、この映画でもっとも多彩な演技を披露しているのは彼女でしょう。

 私としては、パイロットたちそれぞれの個性を活かし、もっと彼らのプライベートに踏み込んだエピソードももっとうまくからめて欲しかったんですが。

 あと、やはりジャン・レノはいいですね!彼は完全な地上勤務なので、実質上のリーダー役はM・ヘンダーソンの部隊長なんですが、ジャン・レノはのほほんと全体をゆったりと包んでいるというか、なんとなく司令官というよりは校長先生のような雰囲気。
 そしてジェームズ・フランコなんですが、『スパイダーマン』ではトビー・マグワイヤよりもボンボン然としてヘナヘナだったのに、この作品での彼は渋めのワイルドタッチでなかなか良いんですよ。淋しげなかげりのある微笑みかたをするというか、ふとした表情になんとなくあのジェームズ・ディーンを思い出させる時があるんですねえ。
 照れ笑いのときもそう。今後も良い役に恵まれて味のある役者になってほしいですねえ。

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 さて、とはいうものの、やはりプロデューサーの企画意図そのものが複葉機によるリアルなドッグファイトを描きたかったという事だけに、目玉はやはりヒコーキマニア垂涎のクラシックプレーンが画面狭しと飛び交って描く文字通りのドッグファイト(犬のかみつき合い)。監督のトニー・ビル自身がバリバリのヒコーキ野郎だけに期待も膨らみます。

 ちなみに当時の複葉機は現代でいえば軽飛行機に近いスペックなんですね。風に対してむきだしの操縦席、防弾装備もないパイプと布の、まるでテントのような機体。
 だから空飛ぶタクシーみたいなセスナ、まして空気を切り裂くジェットなどとは全く異なる運動性や浮遊感があるわけですが、こればかりはよほどのマニアか実際に飛んだ者でないと判らない。
 そういう意味での航空機の描写に関してはこの監督ならではの描き方ができています。
 ただ哀しいかな、やはり複葉機の完璧でリアルな再現…とまではいかないようなのですが、こればかりはフルCGにしなかったおかげというか、代償というか。
 細かく挙げると機関銃はめったに命中しない(4年間を通じて最高の撃墜王は80機、アメリカ人で26機が最高で4機堕とせばエースと呼ばれた)とか、いくらなんでも接近しすぎの編隊飛行とか、訓練が簡単すぎる(とにかく操縦がデリケートで難しい)とか、なによりも当時の星形エンジンはプロペラと共に回転した(これは知らない人が非常に多いけど大切な事実なので、合成でもいいから再現してほしかった)などなど、キリがありませんが…

 え?アホな、プロペラならともかくエンジンまで廻してどうするのかって?
 いや、ホンマなんですよ。プロペラがエンジンに固定されているんです。だから一緒に廻る。冷やすためもあるんですが、鉄のかたまりを回転させることで得られる巨大なジャイロ効果はものすごくて、あの複葉機独特の虫のような高い運動性能と安定性を生み出す要因のひとつになっていたんです。
 だけどそのぶん、エンジンが止まると即墜落するような不安定なバランスだったんですねえ。
 …といっても、そのことにこだわるのは私のような複葉機マニアくらいのもの。知らなければ全く気づきませんし、物語にはなんら問題ないレベルなので、ここでは目をつぶることにしましょう。

 とはいっても、過去に私が観てきた複葉機ドッグファイトが出てくる映画の中では秀逸な一本には違いありません。まあ、画面の迫力や華やかさを強調しすぎるためにリアリティを損なっている部分は否めませんが、それでも双発(エンジンがふたつある)大型爆撃機(連合側/ハンドレページV1500:ドイツ側/ゴータG)の登場なんて、従来では考えられない豪華なラインナップなのです。しかも、主人公たちがはじめて訪れた基地にあるのは連合国という設定からか、イギリスの誇る新鋭機がぞろぞろ。

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 逆に画面の端にはなぜかブレリオ単葉機(写真右で地上に置いてある飛行機)という1909年に初めて英仏海峡を横断した超クラシック機まで画面に登場していますが、これは練習機にもならないくらい古いのでスタッフのシャレなのかもしれません。
 いや、それとも?ジャン・レノ演じるカピタン・セノーが現役の時に乗っていた元愛機という設定なのかも。

 ちなみにドイツ側の爆撃機はやたらややこしい六角形のパターンが全体に描かれていますが、当時フランスとドイツでは、縞模様や細かいパターンの迷彩塗装をすれば目の錯覚を利用して敵機が照準をしにくくなる、という研究結果があったんですね。
 まあ例えるなら、縞シャツを着たアナウンサーがテレビに出ると柄がムラムラ(専門用語でモアレといいます)に見えるでしょう?まあ、そうでなくても細かくて派手な柄がウロチョロしてると眼がチラチラしますわね。
 そうそう、劇中に登場するラファイエット航空隊をあらわすインディアンのマークは本当です。年代ごとに多少変わるのですが、敵味方共によく知られたものだったようです。

 さきほどリアリズムに関して文句を書きましたが、それでも機関銃がしょっちゅう弾丸づまりを起こすことや、パラシュートを装備していなかったこと、機関銃を装備した飛行機に拳銃が必要な理由などのツボはおさえていますし、飛行が可能な実機を使っているならではの操縦感覚───どこをどういじればどの部分が動くか───はさすがです。尾翼はこれまでの映画でも写しているんですが、補助翼といって主翼の両側にある部分までちゃんと動くところはめったに画面に登場しません。
 こういうのにこだわって描く人は宮崎 駿監督くらいなもんです。

 
 前回もちら、とお話しさせていただいた複葉機が登場する映画のひとつにディカプリオの『アビエイター(2004)』と『つばさ(1927・サイレント映画)』も挙げさせていただきましたが、実はこれらの映画と今回の映画の舞台となっているラファイエット(La Fayette)飛行隊との関係が面白い。
 『アビエイター』の主役、つまりディカプリオが演じていたアメリカ史上屈指の大金持ちハワード・ヒューズが、財産のほとんどを費やして作った映画が『地獄の天使(1930)』という前代未聞の航空機映画なわけですが、劇中でも描かれていたように、ハワードが観て「こんなんやったら俺でも、いや、俺ならもっとスゴイのを作ってやるワイ」とアホな決心をした映画が『つばさ』なんですね。
 だけどその“こんなん”こそは第1回アカデミー賞で最初に最優秀作品賞と技術効果賞を獲得した記念的な作品。
 そしてこの『つばさ』の監督ウィリアム・A・ウェルマンこそは第一次大戦中にラファイエット航空隊に所属したパイロット、つまり本物の『フライボーイズ』だったんですね。
 戦後にフツーの映画監督として無声映画を一本撮ってるのですが、これが結構ヒットしたらしく、『つばさ』の企画が持ち上がると共に、その腕と経験を見込まれての抜擢だったんですね。

 あいにく今回の映画では、彼をモデルにした人物は登場しませんが、最後に写る航空隊の集合写真のどれかが彼なのでしょうか。
 さて。故郷でやるべき事を失い、はるばるフランスまでやってきてまで自国のためでさえもない戦争に加わったブライアン・ローリングス。果たして彼はそこに意義を見いだせたのでしょうか…
 どうしても派手な空戦に眼が行きがちですが、ぜひ彼の一挙手一投足、そして彼の向かう先を一緒にご覧くださいね。

 これを機に名作『ブルー・マックス』や『華麗なるヒコーキ野郎』をご覧になってみませんか?いずれも人間ドラマとしても素晴らしい傑作中の傑作です。そちらもいずれご紹介しましょうね。

*過去のヒコーキ映画のおはなしもあるので、ぜひ前回の記事もお読みくださいね。
 
 では、また、お逢いしましょうね。

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 最後まで読んでくださってありがとうございます。ちなみに私───
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コメント

おはようございます。

冒頭のスティルは始めてみました!これは観客を呼びそうなスティルですねぇ。
でもよろ川長TOMさんに同感する部分が多いのでビックリ。ジェームス・フランコも絶対この映画で魅力アップですしね。それからロイ・ヒル監督の「華麗なるヒコーキ野郎」は僕も大好きな作品です。あのマーチは今でも頭で演奏できるくらいインパクトありましたw。またお邪魔しますので、宜しくお願いします。

投稿: yanks | 2007年10月24日 (水) 07:09

トラックバック&コメントありがとうございました。
いよいよ公開なんですね。待ちくたびれて、ちょっと忘れかけていました。(笑)
絶対劇場を強襲するつもりです。

投稿: samurai-kyousuke | 2007年10月25日 (木) 20:33

突然で申しわけありません。現在2007年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票にご参加いただくようよろしくお願いいたします。なお、日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。

投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2007年12月23日 (日) 14:49

観たい観たいとアドバルーンをぶち上げといて、とうとうDVD観賞になってしまいました。
有言不実行の極みでございました。
やっと昨日観ました。
好きなジャンルの映画という事もありますが、楽しめました。双発爆撃機に燃えましたよ。

事後承諾になってしまい申し訳ないのですが、記事内リンクでこちらのレビュー紹介させて頂きました。支障がありましたらお伝え下さい。速攻削除いたします。

投稿: samurai-kyousuke | 2008年3月22日 (土) 09:20

samuraiさん、いらっしゃいませ!おお、DVDが出ましたか!いや、大々的な宣伝もなく、実に地味な公開でしたからね。私も無理矢理英語版で観たので、ちゃんと字幕付のを入手しなければ。資料にもなるから買いですね~。

双発機!! いいですね~!スクリーンにゴータとかハンドレページが登場するなんて、もしかしてかのアビエイターのモデル、ハワード・ヒューズが撮った『地獄の天使』くらいしかないのでは?

削除なんてめっそーな。光栄です。ぜひのっけておいてください。

投稿: よろ川長TOM | 2008年3月23日 (日) 00:12

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» パンチが飛ぶ [Akira's VOICE]
「フライボーイズ」 「猟奇的な彼女」 [続きを読む]

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