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2007年4月30日 (月)

『情婦』ディートリッヒの大女優伝説を改めて確認

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 はい、みなさん今晩わ。
 さあ、この作品はすごい。敬愛するビリー・ワイルダー監督、そしてあの伝説の大女優、マレーネ・ディートリッヒ主演の『情婦』。これは観ておいて絶対損をしませんよ。
 えっ、あなた、この作品をご存じない。
 待った待った、浮気の話とかエロエロな映画じゃありませんよ!?
 いや、無理もありませんね、だって私でさえ生まれる前の古い古い作品なんですから。

 でもご存じない方はもちろん、ご存じの方にも今一度この素晴らしい作品を楽しんでいただきたい。
 さて、この作品の面白さというのはですね………
 


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 この作品はテレビでばかりとはいえ、もう10回は観たでしょうか。白状しますと、私は登場人物を覚えきれないので推理小説が苦手です。
 それと特技とも言えると思うのですが、どんなに結末を知ってるお話を聴いていても、その作品のタイムラインに沿って毎回初期化されたアタマで観られるんです。便利でしょう?

 だからコアな推理マニアには「先が読めてしまうからつまらない」といわれているアガサ・クリスティが原作だろうとどうということはありません。たしかに推理サスペンスですから、トリックが初見からまるわかりではどうしようもない、って方もおられるでしょう。
 でもそれよりもこの作品は役者と役者のぶつかり合い、そして名匠ビリー・ワイルダー監督の演出手腕こそを楽しんでいただきたいのです。

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 さてお話です。
 主人公というか物語の視点となっているのは、チャールズ・ロートンというアクの強い名優が演じる老いてなおやる気満々のベテラン弁護士。写真上段左でバッハみたいなカツラかぶってるおっちゃんです。
 ただしご覧の通り、でっぷりと肥りしかも心臓にも持病があるので、自分の大きな屋敷の階段さえも自力で昇ることが適いません。
 おまけに仕事柄、不摂生なもんでお世辞にも健康的な生活とは無縁。でも実際は、すでに得た富と名声で悠々自適で、生活のために仕事をする必要などないんですね。そこで主治医の指示で、エルザ・ランチェスターというちょっと面白い雰囲気をした年配の女優さんが演じるベテラン女性看護師(写真上段右)がお目付につけられています。
 この弁護士、これまでもどんな難事件でも論理と弁舌で屈服させてしまう怖いモノ知らずなのに、彼の身の周りで小うるさく生活指導を強いてくる看護師さんには頭が上がらない。
 こうした皮肉というか、ウィットに富んだ悪戯心あふれる人間関係がいかにもビリー・ワイルダー監督ならではですね。

 そんなわけでほんとはストレスが掛かる法廷での仕事などはすべきではないんですが、仕事が最大の趣味みたいな彼の所にやってきた仕事は、看護師の監視下でくさっていた彼をがぜんやる気に駆り立てるものでした。
 一本気で純真な男が、悪女に騙されて殺人の濡れ衣を着せられたと言うのですが、どうみても動機もある上にアリバイ不十分で男の有罪はまず間違いないというもの。
 男を演じるのはラテン系ならではの黒い瞳に黒髪の甘いマスクで多くの女性を魅了したタイロン・パワー(写真下段真ん中)、そして悪女を演じるのが伝説の大女優マレーネ・ディートリッヒ(写真下段右)。

 タイロン・パワーは『マスク・オブ・ゾロ』の記事でも紹介していますのでそちらもご参考に。
 ディートリッヒはあまりにも有名なので今更……え、ご存じありませんか。
 では、ざっとお話ししましょうね。彼女は生粋のドイツ人で、それもかなり名家のお嬢さんだったんですが、女優になりたくて16歳で旅芸人にくっついて家を飛び出したといういわくつきの行動派。

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 第一次大戦後の1922年にスクリーンデビューを果たし、1930年に第二次大戦前のドイツ映画の傑作『歎きの天使』で一躍世界的スターに。同年、パラマウントに招かれてアメリカへ渡り、数々の名作に出演。
 第二次大戦中は大女優にもかかわらず率先して最前線への米兵慰問にも出掛け、名曲『リリー・マルレーン』でも知られる彼女ですが、第二次大戦開戦前、そんな彼女の人気を宣伝に利用しようとしたナチス、それも戦前ですからヒトラーの最盛期に「来い」という呼び出しをひと言のもとに蹴ったという勇気の持ち主でもあります。
 戦後には当時世界一と言われたその美しい脚に査定の厳しいことで有名なかの世界的保険会社に100万ドルという高額の保険をかけさせたとか、ほんとに歴史的スケールの伝説に事欠かない人ですが、演じた役はむしろ観る側が「よおまあ、この大女優がこんな汚れ役を!」と驚くような作品が多いんですね。

 この『情婦』における悪女役もそのひとつですが、若い頃からいわゆる役者根性の権化みたいな人だったようで、ほっそりしたアゴの線を実現するためになんと奥歯を全部抜いていたという話もあります。
 反面、気さくな人でもあったようで、ヘプバーンのラブコメ『パリの恋人』ではトニー・カーチスらと共にほんの一瞬のカメオ出演も快諾してるお茶目さもあるんですね。

 さて、彼女のビッグネームのお陰と、古すぎる俳優さんなので21世紀の今では霞んでしまってますが、主演のチャールズ・ロートンという人も実に味わいのある役者でして、74歳になる我が母親などは彼の代表作セシル・B・デミル監督の『暴君ネロ』のネロ(史上最悪といわれたローマ皇帝)役がいまだに忘れられない、といいます。
 ほかにもキューブリックの『スパルタカス』のグラッカス役にせよ、ローマの貴族役がよく似合う。つまりアクが強いだけでなく、品があるんですね。この人は。

 そして看護師役のエルザ・ランチェスター。調べていてビックリしたんですが、このエルザさん、実生活でもチャールズ・ロートンの奥さまだったんですねえ。もちろん公開当時の観客はその事を知ってるはずです。だから劇中でのふたりの力関係って、もしかしたら実生活もこんなんじゃないんかいな、って思ってしまう。
 このへんの配役もなにやらビリー・ワイルダー監督の悪戯心が見え隠れしてますねえ。イケズですねえ。

 でも私が一番驚いたのは、彼女若い時、あのボリス・カーロフ主演の『フランケンシュタインの花嫁』でなんとあの花嫁、そう、ラストで「しゃげぇ~~~~」って吠える、あのおっとろしい役柄を演じてたんですねえ。どうやらそれがデビュー作らしい。
 それにほんのちょい役ですが、『メリー・ポピンズ』で冒頭で子供たちに愛想を尽かして出て行く先任のベビーシッターが彼女。これまた、ディートリッヒとは違った意味で伝説の女優さんではないでしょうか。

 『情婦』は半世紀も前の古い古いモノクロ作品ですし、基本的に法廷ものなので重苦しい気分でお話が進んでいきそうなんですが、そこが流石のビリー・ワイルダー監督。
 緊張感あふれる法廷のシーンで突然懐中時計の目覚ましが鳴って、せっかくの雰囲気がドッとくずれたり、またその理由が実にユニーク。
 このエルザさん演じる看護師さんが実にいい緊張緩和の役目をになっています。

 オチが読める人も私のように単純な人も、ぜひこの機会にこの映画史に残る傑作をご堪能下さい。
 けっして後悔させませんよ。

 余談ですが、2004年にこの『情婦』、アル・パチーノ主演でリメイク化の話がでていたようなんですが、どうなったんでしょうね。アル・パチーノ、裁判ものも結構お好きなようですが、今度は悪魔の弁護士ではありませんのでお間違いなく。

 ところで10回目?の鑑賞後としての追記。

 今回の鑑賞で思ったのは、タイロン・パワーの演技。じっさい、うまいんだか、へたなんだかよくわからないんですよ。
『血と砂』『愛情物語』でもそうですが、この人は昔から舞台っぽい芝居なんですよね。おおげさというか、当時としてもあまり映画的ではない。
 逆にビリー・ワイルダーは彼のそういう“ウソくさい”所を逆手にとって、今回の被告役をさせてる気がしてなりません。
 彼の懸命の弁明も、どこか芝居っぽくてウソくさいおかげで、ディートリッヒのいかにも謎めいたキャラから眼をそらす事ができてて、結果としてトリックを読みにくくしてるような。

 物覚えの悪い私でも、さすがに10回も観ると多少は色眼鏡で観る事もあるのかしら。

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 *イメージ画面は『Karnick on Culture』個人サイトほかから拝借いたしました。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

ぎゃー!ぎゃー!ぎゃーーーっ!!
見逃した!ばっちり見逃しちゃいましたっ!!
これ、うちのレンタルショップに置いてなくて、今回こそは永久保存版にっ!!と意気込んでいたのにぃぃぃ!
日常の忙しさにかまけてうっかりしてました。
TOMさんのこの記事、前もってチェックしていただけに泣くに泣けない・・・。(;_;)

で、やっぱり面白かった?・・・ですよねぇ。

投稿: 小夏 | 2007年7月 2日 (月) 10:34

小夏さん、毎度です。
あらら、見逃しましたか。私ビデオでは持ってますが、今回はついにデジタル画質で録画しました。それほど好きなんです、これ。

たしかに店レンタルではなかなか無いかも知れませんね。
一応、TSUTAYAもセルものならあるようですが、逆に廉価版ですっげー安い値段のDVDで売ってたような気がします。

大きな本屋さんなどを覗いてみては如何?でも、またきっとこれから何度もBSで放送しますよ。
その時はぜひご覧ください。

投稿: よろ川長TOM | 2007年7月 3日 (火) 23:16

そうなんですよねぇ~。
展開は先が読めちゃうんだけど、
役者の演技合戦素晴らしかったですね。
>映画史に残る傑作
本当!そうですよね。
最近はそう思えるような作品があまりないのが
淋しいですよねぇ~。

投稿: miyu | 2007年10月16日 (火) 21:05

miyuさん、いらっしゃいませ!
昔の名作を観るにつけ、傑作の条件って、もしかしたら監督やスタッフがどれだけ苦心する事を楽しんで創ったか、ということではないかと思うんです。
楽しんでない映画の苦労は単なる苦痛ですが、楽しむためにがんばった苦労は後の語りぐさになりますもんね。
で、それが本当の意味のメイキングではないかと。
そして今の映画はあまりにも工業化しすぎて、そうした職人気質がふっとんでるのかも。

投稿: よろ川長TOM | 2007年10月16日 (火) 23:36

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