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2007年2月22日 (木)

『あさっての方向。』ふたりの女性の成長を描いたある夏の日の美しき詩。

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 はい、みなさんこんばんわ。   今回はすてきな素敵な、日本のアニメドラマをご紹介しましょうね。  もう、この作品を観たら安っぽいテレビの恋愛ドラマなんて観る気がしなくなりますよ。もう、日本のアニメドラマはこんな所まできてしまったんですねえ。

 もちろんアニメですから、日本のアニメならではの可愛らしい絵柄ですし、きれいな水彩画のような風景なのですが、お話は主人公たちの心の動きや成長を繊細に描き出した、立派な映画に負けない作品になっています。

 思春期の若い人はもちろん、すっかり大人になってしまった、あなたにもじっくりと観ていただきたい、そんな優しい、美しい作品です。さあ、お話しさせてくださいね。
 

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 ある夏の昼下がり。何かをふっきるために郊外の避暑地へ越してきた女性・野上椒子(のがみ しょうこ)は、道の祠に祀られていた願い石に一心に願いをかける少女・からだと出逢う。
 そこへ偶然通りかかったのは、かつて椒子の恋人だった五百川 尋(いおかわ ひろ)であり、からだは彼の妹だったことを知り驚くが、天真爛漫な からだ の勢いにおされた椒子は誘われるまま、次の日、尋たちと海水浴にいくことに。

 だが、別れた恋人だったとはいえ、恋人に妹がいたという事すら知らされていなかった椒子の内心はおだやかでない。

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 少しづつずれてゆく、互いの感情───四年前からわだかまっていた椒子の感情は、ついにあることをきっかけに何も知らない からだ に八つ当たりという形で暴発する。
 帰り道、願い石の前で二人きりになった からだ と椒子に月の光の下、不思議な奇跡が起こる………

 かつて大林宣彦監督が『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼ』の尾道三部作で描いたファンタジックな青春映画を思わせるシチュエーション。
 いずれも名作ですが、ありえない!というようなエピソードからお話が始まっていますね。転校生なんて、お寺の階段を抱き合ってころげおちたら、男の子と女の子の心が入れ替わっていたんですね。そんなアホな!ってきっかけなんですが、そんな事は映画を観ているうちにどうでもよくなる。
 極端な話、主人公たちの見た夢物語でも構わないんです。誰にも信じてもらえなくてもいい。大切なのはそういうことではないんですね。

 このお話の不思議な部分は、大人の女性・椒子と、12歳の多感な少女の“年齢”が入れ替わること。
 椒子は24歳。恋愛も何度か経験して、大人の階段をすこし上って、ひと息ついている。しかもちょっと疲れて居るんですね。尋との、納得いかないまま一方的に断ち切られた四年前の恋愛をまだひきずっている。
 からだの方は12歳。来年中学生なんですが、すごく小柄で、まだ小学校低学年みたいに見えるんですね。両親を亡くして、当時大学生だった尋にひきとられ、以来ふたりで慎ましく暮らしているんですが、小さな子供の自分が尋の負担になっているのではないか、とすごく気にしている。

 うまいんですね、すべてのキャラクターの描き分けが。とくに年齢が入れ替わってからの、ふたりの反応。
 信じられないとはいえ、現実を冷静に分析しながらなんとか受け入れようと努める椒子、それまで年齢に不似合いなほどしっかりしていたことがウソのように泣きじゃくる、からだ。
 みてくれは逆転し、すっかり子供の姿の椒子なんですが、パニックになったからだをはげまし伴って自宅へ連れ帰る彼女の行動ひとつひとつが、子供をかばい守る頼れる大人の姿なんですね。

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 こうしたシチュエーションだと、心と体のアンバランスをネタにすれば、いくらでも話が創れてしまうんですが、これを安っぽい笑いに持ってゆくのではなく、あくまで現実問題としてひとつひとつ解決しながら必死にこれからを生きてゆこうとする姿勢を描いている。
 最初は信じない尋ですが、やがて彼も現実として受け入れてゆく過程が実に見事に描かれていますし、またそのことだけに重きを置かず、本来のテーマへとしっかりと、だけど自然に話を持ってゆくんですね。

 大人と子供の違いってなんだろう、いったい子供はいつ大人になって、大人はいつ、子供でなくなるんだろう。

 人間、何年生きても心と体のバランスが取れる、という事はないのかもしれませんね。大人の身体になっていても精神までは大人になりきれずに感情のコントロールができなかったり、子供の身体なのに大人みたいにふるまい、判断してゆかねばならなかったり。
 このお話はそのことをファンタジックなエピソードをきっかけに優しく美しく描き綴ってゆきます。

 椒子はバランスを失って迷ってしまっている自分の心が今ある場所と、行くべき先を、からだは暗中模索で自分でもどうしていいのか解らない若く幼い心の方向───まさに、『あさっての方向』を奇妙な共同生活の中で少しづつ見つけてゆくんですね。そしてその『あさっての方向』はふたりだけでなく、登場人物みんなにある。

 からだとは反対に小学六年なのに発育が目覚ましく、「高校生と間違われることすらある」と自称する少年、網野徹允のからだに対する幼い恋心の行方もまたみどころのひとつ。

 とにかく絵が美しい。いくら21世紀でデジタル全盛になろうとも、アニメーションは所詮手作業、マニファクチュアの結晶ですから、昨今ではどうしても時間的な問題から外注に出さざるを得ないんですが、このスタッフはがんばってくれたんですね。
 キャラクターの絵が最初から最後まで、まったく変わることなく、時に愛らしく、時に美しい絵で魅了してくれます。
 そして何よりも、もし日本にアニメーションのアカデミー賞があるのなら、私はまよわずこの作品に賞を捧げたい。いわば動画の演技賞、『動演』賞とでもいいましょうか。
 椒子とからだの演技が特にすばらしいんです。

 今更ながらですが、アニメーションはどんなシーン、どんな絵でも誰かが描かない限り微動たりとも動いてはくれません。そして、まばたきひとつでも、誰かが動きのタイミングを計り、実際に何度も試しに原画を動かしながら本番の絵を一枚一枚描くのです。
 たとえばこのシーン。シナリオに「携帯電話をとる椒子」とあったとして、一般的な作品ならば、テーブルの電話を手にとって耳に当てるだけでも済むのに、わざわざ小首をかしげ、ロングヘアと耳の間へそっと電話を入れるんですね。しかも彼女は風呂上がりで髪は湿っているので、その髪もふだんより重さが出るように描いている。
 さらに同時に椒子の目線。たしかに電話をとるとき、人はあらぬ方向をふと見るものです。

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 見事です。まさに、女優の演技そのものといえるでしょう。この作品、こうしたことを全編通じてやっているのです。頭が下がります。私なんて、このことだけでも感動します。
 そんな彼女たちの日常が、おそらくは湘南やアッチ方面と思われる美しい美しい風景の中で綴られてゆきますね。この水彩タッチの風景画のような背景が、暑いんですがどこかノスタルジックで、むしろそよ風さえも感じられるほどの気持ちにさせられます。

 かつてジブリの実験的試みとして、アニメで実写の映画以上の表現を目指した作品に『想ひ出ぽろぽろ』がありますが、この『あさっての方向。』こそはかの作品がこうあるべきひとつの完成形だと言えます。
 というのは、この作品を実写にしようと思っても、大人が子供に、子供が大人にとなる、ということは役者が変わるしかありません。たとえ本当の親子や兄弟だったとしても、印象や声も変わります。そしてその演技がいくら賞取りレベルだったとしても、観客の頭の中で同一人物に見せるのはまず、不可能なんです。
 そう言う意味では、まだ『転校生』『デイ・ウォッチャー』のように男と女の心が入れ替わる方が無理がないので、できるとすれば身体ごと入れ替わるという設定にするしかないんですね。でも、それではこの作品の本質とは違ってくる。
 子供に戻った椒子は、身体だけとはいえ昔に戻ってやり直せるのか、という可能性、いきなり大人になったからだは自分の変化にとまどいながらも、多少デフォルメはあるとはいえ、子供が大人へのステップとして経過するお約束でもあるわけです。
 これはどちらも仮のものではなく、本人だからこそ体験し、経験してゆけることだからですね。

 『あさっての方向。』は原作コミックではまだ続いているようですが、アニメ版は終了し、現在DVDで順次リリース中。ぜひ、ご覧下さい。いいお話ですよ。
 最終回も、ふたりの成長を見届けるうちに、もうこのままでもみんな大丈夫なんだ、こうして生きていけるんだな、と安心させてくれます。こんな終わり方もあったのかと思うほど爽やかな感動を与えてくれます。

 それでは、また。


 注:筆者は原作を一切拝見していません。あくまで放映されたアニメ作品に関してのみの観点でレビューをお書きしています。


 では、また、お逢いしましょうね。

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