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2005年11月13日 (日)

『蟲師(むしし)』観なかったことを必ず後悔する作品!

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 はい、みなさんこんばんわ。
 今回ご紹介するのは『蟲師(むしし)』。現在フジ・関西テレビ系で土曜深夜放映中のアニメです。
 映画好きが“蟲”という文字を見てまず思い出すのはやはり『風の谷のナウシカ』ですね。
 変わり果てた未来の地球であるいは厳しい自然のなすままに、あるいは過去に捕らわれながら自然に逆らって生きる人々を描いた不朽の名作です。
 一方この『蟲師』の舞台はなんとなく昭和の初め頃のような、しかし確かに日本の景色なのです。
 懐かしく、また神々しくもある緑あふれる山河と海陸を年がら年中旅しながら、時には研究のため、時には人助けのために村や町に立ち寄る“蟲師”は医師のようでもあり、物知りな薬売りのようでもあり。
 そんな蟲師のギンコという青年がかかわってゆく、不思議で心のひだにじわりと染み込む魅力満点の物語の数々をアニメ化したものです。
 しかもこのグレードなのに劇場用ではなくテレビ放映。映画好きならこれを観ないと後悔しますよ!
 


『蟲師』に出てくる“蟲”。
 音は“むし”ですが、昆虫や節足動物、微生物とは異なるカテゴリーの生き物…むしろ生命の原点に近いモノという位置づけで描かれています。

 筆者は熱帯魚、グッピーを十数年前から飼っています。
 何も知らずに飼い始めた頃はとにかく死なせてばかりでした。本を読み、店の人に尋ねてはさまざまなやりかたを試すのですが、やはり短期間で殺してしまうのです。

 筆者の飼い方は“ネイチャー式”といわれるもので、水槽にはたくさんの水草を植え、石や砂である程度の地形を作ることでできるだけ魚が自生していた環境に近いものを作るのが目標でした。
 結局、グッピーが子を産み、世代交代しながら短い生涯を健康に全うできるようになったのは数年後のこと。
 その頃にはそれまで魚と同じように枯れて(腐って)ばかりだった水草がウソのように増えるようになっていました。
 原因はどこにあったのかというと、水中の微生物の種類と数。
 といっても目にはもちろん見えません。顕微鏡でもかなり高級なものでないと見ることなど叶わないほど微細な生物が水質を安定させ、さらには魚の体調を整え、水草の生育を促していたのです。
 不思議なことに、水中の微生物がよい具合に活性化すると、水道水やミネラルウォーターなどよりもはるかに透明度が上がり、まるでクリスタルガラスのような輝きを持つようになります。

 水蒸気などはひとつひとつは目に見えないのに、集まると雲になる。ところが顕微鏡なら見えるはずの微生物が無数に集まっているのに、むしろ見えなくなるなんて、なんと奇妙なことでしょうか。
 しかも生き物を活性化させるのも病気にするのも微生物の働きによるところが多いのです。

 “蟲”の存在は、そういう感覚でとらえるとよいかもしれません。

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 この蟲たち、悪意や意志と言うものとはおよそ縁がないほど下等な生物なのですが、インフルエンザのウイルスなどと同じで、時に人間に害が及ぶこともあるように描かれています。
 しかし害になったり益になったりするのは、むしろ蟲に関わる人間側の勝手な解釈や取り扱いのせいなのですが。

 自然の不可思議がベースになっているのは先の『ナウシカ』も同じなのですが、そのテーマの重さからか宮崎ファンでも人気が二分すると耳にします。
 事実、原作版はたいへんな長編であり、アニメ版よりもはるかに遠大でずっしりした課題を読むものに突きつけてきます。
 しかし作品を知らないうちは一見ナウシカの“腐海”に棲む蟲たちを連想させる『蟲師』ですが、実際に読んだり観たりしてみるとその独特な静けさに驚くと共に、なんとも懐かしくて落ち着いた空気感が自分を取り巻いていることに気づくのです。

 これはなんといっても熱血タイプのナウシカに対して、クールな蟲師ギンコの冷静な眼を通してゲストキャラたちの織りなす群像劇を客観的に淡々と描いているために、いわゆる“説教臭さ”が感じられないからかも知れません。

 そしてそういった人間ドラマの素晴らしさもこの作品の魅力ですが、なんといっても毎回登場する奇想天外の蟲の魅力も素晴らしい。
 ここに登場する蟲がひきおこす事象・怪現象は、いわば妖怪オカルト系の事件であり、心霊現象にまとめられそうなことだらけ。いわば非科学的なのですが、それを蟲師たちは先人たちより連綿と伝わる蟲師の知恵で解明し、解決してゆくところが毎回醍醐味にもなっています。

 とはいえ筆者は科学で解明できない事象とは単に現代科学が未熟なせいであって、そこにはちゃんと納得のゆく説明が見つかる、なんらかの道理が必ずあると考えています。
 さきの微生物のこともそうですね。顕微鏡が発明されるまでは風邪も悪魔の仕業だったわけで。
 『蟲師』はそういう意味でまさにデータと経験そして実地検証が導き出す論理的解明推理の面白さを持った一種の科学サスペンスでもあります。
 しかも専門用語で屁理屈をこねくりまわすのではなく、無口なギンコをして実に短い台詞で見事に説明してみせるところに毎回筆者は舌を巻いてしまうのです。
 これはSF・ファンタジー系作家諸君、学ぶところが多いですよ。

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 もうひとつ驚くのは、同じ展開で同じ内容でありながら原作は原作、アニメはアニメの良さをそれぞれ維持したまま両立している点です。

 たいていはいずれか先に観た方の印象にひきずられるし、比較してしまうものですが、この作品は同じ構図のシーンでさえもまったく違和感を感じないのには感心します。
 モノクロの原作で自分の記憶感覚に感じていた色や音、動きはそのまま動画になって具現化しているといっても過言ではありません。
 しかもその映像も音も音楽も実に美しい。じっと観ているだけなのに、いつのまにか目が潤んでいることさえあるほどです。
 また逆にアニメを観てから原作を読んでも、アニメで観た色や聴いた音楽だけが紙面に自然に浮かび上がってきます。これほどの成功例は珍しいかもしれません。

 2005年11月現在、原作は6巻まで刊行中。はたして何話までがアニメになるのかが気になるところですが、(追記:2008年にて終了、単行本全10巻完結)この作品はその独特な空気感を味わうこともさることながら、多少お話のむつかしさもあるのでむしろ繰り返し見返したほうがより理解でき、楽しめますので録画するなりDVDを待つなりで永く手元に置いておきたい作品です。

 原作は原作で、傑作では必ずと言って感じられる、モノクロームなのになぜか色が垣間見えるという作品に仕上がっています。

 川や海の大切さは魚を飼えば思い知ります。

 見えないだけで、実際にこの世には無数の生き物、生命がいる。足元に、頭の上に、目の前に、後ろに、そして空気中に。
 そしてすべてのものは生き、活かされているのだとこの物語は教えてくれます。
 願わくば、できるだけ多くの人に観て欲しい。WWFやユネスコで世界中へガンガン推薦し、長く何世代も読み継がれて欲しい作品です。

 文中、俳優・スタッフ敬称略
*イメージ画面は第一話『緑の座』本編から拝借しております。

 『蟲師』公式サイトはこちら
 
 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

よろ川長TOM様
『蟲師』記事にしてくださってありがとうございます…って、私がお礼言うことでもありませんね^^
私の拙い文章力では、到底伝わらない『蟲師』のよさを分かりやすく、愛を持って記事にしてくださり感謝申し上げますっ…て感じかな?
ところで、ぐーたら主婦な私は、ホコリだらけなおうちに住んでおります。「我が家は腐海。腐海が我が家を浄化するのさっ!」と言い訳。言い訳してイイワケ?

投稿: ちゃとと | 2005年11月14日 (月) 19:56

そうそう、忘れていました。『蟲師』実写映画化です。監督は何と大友克洋!主演オダギリジョー。2006年冬公開予定。楽しみですね~

投稿: ちゃとと | 2005年11月14日 (月) 21:17

ちゃととさん、コメント&お褒めのお言葉感謝感激です!
実写化の話は“蟲師”の検索で知りましたが、私はかなり懐疑的です。(+_+)
オダギリジョーは好きなのですが、白髪の彼を想像したら『あずみ』とかのヘンな雰囲気を連想してしまいました…蟲の映像効果はよほど上手くやらないと単なる光学合成になりそうですしね。
ともあれ、私はこのアニメ&原作だけで充分満足です…はい。

投稿: よろ川長TOM | 2005年11月15日 (火) 10:05

こんばんは!とりあえずTB、お返し。
あはは、、出た!原作ファン!
最初の画像見ていると、オダジョー、良い線行っているじゃないですか!
でもこのアニメでは、襟付きか、、、映画はもっと、昔風でした。
よくわかりませんが、淡々としていたし、静かな映画でした。
映画見て、まためちゃくちゃな事、書いてくださいyo!

投稿: 猫姫少佐現品限り | 2007年3月27日 (火) 02:19

こんにちは!
私はアニメが先でした。地元では放送していなかったのですが、BSフジでの再放送で見た瞬間落ちましたよ(^^)
アヤカシの類になじんでいることからも、すんなり「蟲」を受け入れられました。理屈じゃないですから、あーゆーのって(^^)
そしてあっという間にDVDと原作本が書棚に収納されたわけです。どちらも永久保存版ですよねw
DVDの映像特典ではスタッフが代わる代わる登場するのが良いです。レギュラーの声優さんはギンコしかいないってのも凄いけど。

今回のBS再放送は結構反響があるみたいですね。盛り上げて2期につなげたいですね~~。

投稿: たいむ | 2008年12月10日 (水) 18:10

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