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2005年10月 2日 (日)

『ミスタア・ロバーツ』笑って、ホロリとして。小粋な戦争コメディ!

mister-roberts01.jpg
 
 はい、みなさんこんばんわ。
 今回は懐かしい懐かしいクラシック映画ご紹介しましょうね。
 『ミスタア・ロバーツ』。ミスターじゃないんですね。ミスタア。まぁなんとも野暮ったい。時代がかった表記なんですね。
 だけどこれね、めっちゃいい映画ですよ!私はこれがまた観られて嬉しくて仕方ありません。ナイスガイたちががんばるアメリカの古き良き時代の小粋なお芝居を堪能できます。超オススメです。

 最近何かとかまびすしいNHKですが、衛星映画劇場はいまや“名画”を数々放映してくれる数少ないテレビ映画館となりました。
 しかも多分イマドキのことなので、ちゃんとシネマスコープとして放送されるはず。
 以前この作品はテレビサイズにトリミングされて放送されてまして…え、シネマスコープをご存じない?あらら、困りましたね。
 説明するといつも以上に長くなるからそれはご自分で検索していただくとして、さあさあ、お話しさせてくださいね。

ちなみに写真と英名は順番が異なっています。正しくは左からジャック・レモン、ジェームス・キャグニー、ヘンリー・フォンダ、ウィリアム・パウエル。
 


 みなさんはお勤めですか?あなたの上司はものわかりのいい人ですか?
 はい?「いい人もいるし、そうでない人もいる。」そうでしょう、そうでしょう。
 サラリーマンには上司、お店のご主人なら得意先、いやいや学校だって先輩なんてのがいて、好人物もいればイヤ~~なひともいますよね。

 この物語の舞台は、第二次世界大戦終戦間近な太平洋上を航行するオンボロ輸送船・通称“バケツ号”。
 貨物士官の主人公ダグラス・ロバーツ中尉はいわば“ものわかりのいい中間管理職”。
 無愛想だけれど、艦隊生活でとかくツライことの多い水兵たちの立場をよく思いやるその人望ゆえに水兵たちから尊敬を集め“ミスター”の名を冠して呼ばれている。

 対して、彼の上司にあたるおんぼろ輸送船の艦長は、一体何が気にくわないのかへそと根性が素晴らしく曲がっていて、常に部下たちに意地悪く嫌がらせや無理な仕事ばかりさせ、従わなければ罰則を与えては嫌われ度に拍車をかけながらもあまりの陰湿さに怖れられている存在。

 だけど部下たちは上司が嫌でも艦隊生活が耐えられなくても戦争中だから辞めることもできず、狭苦しい輸送船でひたすら真面目に与えられた仕事をこなすしかないんですね。
 彼らの数少ない楽しみといえば、とっくに見飽きてしまった映画の船内上映会と、ごくたまの上陸許可。
 しかし彼らのそんなささやかな楽しみでさえも奪うのが根性悪の艦長にとっては無上の楽しみなんですね。


 そんなクソッタレ艦長の絶対的権力の象徴となっているのがジェリ缶に植えられてブリッジの外に鎮座ましましている小さなヤシの木。
 どうもなにかのご褒美だか記念だかに艦長がエライさんから貰ったらしく、艦長がこれを何よりも大事にしているのを皆知っているので、クルー全員の憎悪の象徴でもあるのです。
 おやおや?まるで江戸時代の大名が将軍からもらったグッズを部下の生命よりも大切にしているのと似ていませんか?いえいえ、現代でも似たようなことありますよね。

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写真上段左:ロバーツ中尉とパルバー少尉。右:ロバーツ中尉。下段左:艦長、右:医務室でなぜか消火器から怪しげな液体をくみ出す水兵たち

 このアホ艦長に対し哀れな水兵たちに代わって艦長に真っ向から抗議し渡り合うのがミスター・ロバーツの日課。
 医学生を辞めてまで海軍に志願し、断固たる意志を持って正論で艦長のやり方に意見する彼は、まんま学のない艦長のコンプレックスを否応なく刺激するために艦長はいまいましくて仕方ない。

 とにかく無抵抗でいじめられるのに耐えるしかない水兵たちにしてみれば、まさにロバーツ中尉が艦長をやりこめてくれることに唯一の爽快感を求めているんですね。
 しかしミスター・ロバーツにしてみれば来る日も来る日もこんなことをやっている場合じゃないという気持ちで一杯でした。

 彼の望みは、いまや日本に対して大反攻作戦を展開している最前線配備中の駆逐艦への配置転換。

 毎週のように要望書を艦隊人事部宛に提出するのですが、それ以前に転属願いは艦長によってケチをつけられて送付すらも却下されていたのです。
 つけたケチの内容は様々なのですが、艦長はとにかくロバーツ中尉を嫌っているし邪魔な存在の筈なのに、なぜか船から出すことを邪魔し続けるのです。そのワケは…?

 さて、太平洋戦争末期の大侵攻作戦といえば実は沖縄上陸作戦なんですね。
 ミッドウェイ海戦で日本海軍に壊滅的打撃を与え、開戦以来の劣勢を物量にものをいわせて大逆転してたちまち南太平洋を奪還、さらに日本本土へと迫ろうとしていたまさにその頃の話なのです。

 本来輸送船は無防備なので攻撃にさらされるとひとたまりもないのですが、この時点ですでに日本は制海権を失っていて、むしろ最も安全なのがバケツ号など後方の輸送任務なんですね。


 主人公ロバーツ中尉に限らず、「リメンバー・パールハーバー」を合い言葉に日本に対して報復の気概も満々と戦地へ向かう心意気が全米的に満ちていて、日本でもそうであったように、もちろん彼の友人や知人も幾多が戦死していたりするのでしょう。だから自分も早く戦地へおもむきたい。
 おもむいて、一緒に戦いたい。その為にはこんなオンボロ船でのんびりしているわけにはいかない。
 そんな気持ちでいっぱいだったんでしょう。
 この気持ちはかたちこそ違えども『ビルマの竪琴』における水島上等兵にも通じるものがあるように思えます。とはいえ、日本人としては複雑な思いもあるのですが…

 ミスター・ロバーツの同僚であり友人のパルバー少尉や船医も、駆逐艦などに乗れば死ぬかもしれないと頭では解っているので彼に転属などさせたくない一方、生真面目な彼の一途な思いをとどめることはできないことは分かっています。

 でも実は彼を含めて輸送船のクルーの誰ひとりとして、本当の戦地を、戦争の実際を知らないようなんですね。
 戦争当事者であるそれぞれの国は、国策でけっして戦争を悲劇的には報じず、ましてテレビもなく情報といえばラジオか国策映画程度。それとて戦意高揚のためにカッコイイことしか言わないし言わせないので、どうしても純粋な人ほど戦いへおもむいてしまう。

 実は筆者も幼い頃から何度となくこの映画をテレビで観ているのですが、昔は笑えて、楽しくて、根性悪の艦長をやりこめるミスター・ロバーツの男らしさに爽快感を味わったものでした。
 でも大人になって、いや、この記事を書くために10年ぶりに観直したら、実はそんな重い時代を背景にした奥の深い作品だったことに初めて気づいたのです。

 日本でも俳優・今井雅之氏の作・演出・主演の傑作舞台劇に『THE WINDS OF GOD(1995年初演)』がありますね。
 生と死が背中合わせという極限状態が醸し出す緊張感の中だからこそ、そのコントラストゆえにふとした何気ない行動から生まれる笑いが眩しいのです。

 そんな1955年のこの作品、もとは実話をしたためた本をヒントにブロードウェイ舞台劇として大人気を博した舞台劇。
 主演のヘンリー・フォンダ(『怒りの葡萄』『十二人の怒れる男』『間違えられた男』『荒野の決闘』『ミスター・ノーボディ』『黄昏』など傑作多数。娘は『バーバレラ』『帰郷』のジェーン・フォンダ、息子は『イージー・ライダー』のピーター・フォンダ。)はそれまで数々の名作に主演し看板俳優のひとりとなっていたにもかかわらず、その舞台劇のシナリオに惚れ込み、舞台に立つために20世紀フォックスとの新作映画の契約を破棄したとか。
 七年間ロングヒットを続けた舞台劇はついに映画化。

 これ、すごいスタッフが集結しているんですね。
 監督には男臭い映画を撮らせたらピカイチの巨匠ジョン・フォード(『駅馬車』『静かなる男』『黄色いリボン』『荒野の決闘』他)…だったのですが、途中でチョット問題がもちあがり、それが原因で飲酒が過ぎて入院したフォードに代わって途中から感動催涙系の名匠マービン・ルロイ(『哀愁』『心の旅路』『若草物語』他)が引き継ぎ、さらに部分修正を舞台版演出のジョシュア・ローガンが…と、なんと三人の監督によってリレー式に撮られたのです。
 もちろんそんな事情なのでイロイロあったはずなのですが、まあ結果オーライっつうことで。
 ほかにも脚本、音楽、撮影とアカデミー賞受賞経験者だらけ。

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 なんといっても一番嬉しいのは、共演でミスター・ロバーツの友人、パルバー少尉を演じているのが筆者が最も敬愛するペーソス映画俳優ジャック・レモン。
 この作品で本格デビューし、『お熱いのがお好き』『グレート・レース』『あなただけ今晩わ』『アパートの鍵貸します』『女房の殺し方教えます』などなど、のちのハリウッド・コメディ映画史上で最高の演技をたくさん見せてくれるのですが、私がはじめてこの作品を観たとき、彼の吹き替えを担当したのは当時コメディアンとして声優さんも数多く演じておられた売れっ子の愛川欽也氏。(『悟空の大冒険』の沙悟浄、『いなかっぺ大将』のニャンコ先生などなど)
 以後、ジャック・レモンといえば絶対に愛川欽也さんでないとダメなんですが、音声多重放送がはじまり、初めてジャック・レモン本人の声を聴いてビックリ。声も話し方もベラベラの早口の様子までそっくりなんです。
 今で言えば、クリス・タッカーを演じる山寺宏一さんがまさにそんな感じですね。

 ちなみに彼が演じるパルバー少尉も人気を博し、続編として舞台劇『ミスター・パルバー』も製作されたとか。

 もうひとりの主役とも言えるクソッタレ艦長の役にはベテラン、ジェームス・キャグニー。
 小柄ながら筋肉質の体躯と凶暴そうな見かけで若い頃はギャング役で有名に。ミュージカルにも主演し、のちは名脇役として大活躍。
 写真をご覧じろ、がみがみ怒鳴り散らす役柄ではこの人の右に出る人はいません。
 またそんなキャグニーが演じる艦長、いっつも艦内放送で意地悪を通達するんですね。

 そしてつねに真面目で一本気なミスター・ロバーツと、狭い艦内でもお調子者的な処世術を見せる楽天家のパルバー少尉たちの友人であり、大人としてのよき相談相手であるドクターを演じるのは往年の名優ウィリアム・パウエル。
 なんと撮影当時引退しておられたのですが、この映画のためにカムバック。
 この三人がなんとも味のあるトリオを形成しているのですが、筆者はこの組み合わせを観てスタートレックのお三方を連想するのです。
 もっとも、カーク船長のおチャラな性格はむしろパルバー少尉に似ているような…
 ひょっとしたらジーン・ロッデンベリー氏も参考にした…なんてことはないのでしょうか?

 さてさて、戦争が舞台なのでなんだか小難しい解説になりましたが、そんな風に観られるようになったのもこの歳になってから。
 お若い皆さんはユーモアたっぷり、小粋で痛快な戦争コメディーとして楽しんでみてください。
 クスクス笑えて、ホロリとさせてくれる、そして男なら、最後に思わず愛すべき野郎どもと一緒に敬礼してしまいたくなる本当にステキな映画ですからね。

 おっと、もうひとつ情報がありました。
 この映画に水兵の端役(水兵たちが写っている写真で、消火器からカップに怪しげな液体を注いでいる人)で出演しているニック・アダムスは、往年の怪獣映画ファンなら知らない人はいません。
 そう!『フランケンシュタイン対地底怪獣』と『怪獣大戦争(ゴジラ対キングギドラ)』で納谷悟朗さんが声を当てていたあの俳優さんです。

 *写真は映画本編から、ジャック・レモン氏のプロマイドは米国のファンサイトから拝借しております。

 
 では、また、お逢いしましょうね。

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