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2005年6月 2日 (木)

『ガタカ』SFとはこういう映画をいいます。

gattaca.jpg はい、みなさんこんにちわ。

 今回は『ガタカ』をご紹介しましょうね。

 がたか。変な名前ですね。公開当時も「ガタカ、見たか」なんてしょーもない駄洒落で宣伝してたもので、そのときは私も全然気にしてませんでした。
 どうも最近の配給会社はセンスの良くないマトはずれな宣伝しかしないので、かえって大切なお客さんを逃している気がして仕方ないんですけど…まあそれは置いといて。

 はっきり言い切りましょう。この映画はSF好きな人なら観ないとダメです。それほどよくできた、最近では珍しい部類のSFらしいSFです。

 物語の冒頭、シャワールームで異常なほど身体を洗い清める男性が登場します。取り憑かれたように洗って、洗って、こすって、こすって。やがて打ちひしがれたように泣き崩れる………。意味深なオープニングです。
 

 
 さて、このガタカというのはなんでしょう。実はこの映画の舞台である未来社会で、宇宙産業を一手に引き受ける巨大企業の名前なんですね。
 この時代にはもう遺伝子工学がとても進化していて、人間は生まれる前から遺伝子の組合せでその一生も決められてしまう、こわいこわい世界になっています。

 遺伝子で一生が決められるとは、どういうことでしょう?

 たしかに人間には生まれつき向き・不向きがありますが、それでも好みである程度は道が選べるし、努力でやりたいことに手が届く場合もありますよね。でもこの世界は、生まれる前から遺伝子レベルで調べられて、一度不適格との烙印が押されると、それで一生が決定されてしまって、やりたいこともさせてもらえないんですね。

 いわば日本の封建時代の身分制度みたいなもの。

Gattaca002

 イーサン・ホーク演じる主人公ビンセントはそんな不適格者の烙印を押された若者でしたが、幼い頃から宇宙が大好きで、宇宙飛行士になる夢を棄てきれずに、遺伝子レベルのために決めつけられた肉体労働に甘んじながらも、好きな宇宙の勉強に日々を費やしていました。
 しかし、この時代、宇宙へゆくためには結局エリート中のエリートだけが働けるガタカ社に入るしかなく、それはそのまま最優秀の遺伝子を持っていなければならないということを指していました。

 ある日、ついに彼はウラ社会の人間と知り合ってある取引をします。それは、スポーツマンとしての優秀な遺伝子を持って生まれながらも、不慮の事故で下半身不随になった男の遺伝情報を買いとる代わりに、彼の今後の生活を補償するというものでした。
 男の名はユージン。演じるのは2004年に“もっともセクシーな男優”に選ばれ『AI』『コールドマウンテン』『スカイキャプテン』のジュード・ロウ。

Gattaca001

 徹底的に管理された社会、しかもその最高峰に位置するのがタイトルにもなっているガタカ社。それだけに、セキュリティには常に徹底した遺伝子レベルでの抜き打ち検査が導入されていて、出社時の血液検査からトイレでの尿検査、果ては抜け毛からフケの様な皮膚の破片までが監視の対象になっているのです。
 そんなビンセントはユージンになりすますために、毎日徹底的に体を清めた上でユージンから検査通過用に彼の血液や毛髪、はてはフケやアカまでを貰いうけるという神経質で奇妙な共同生活を続けるのでした。

 冒頭の入浴シーンはこのためだったんですね。

 しかしそんなことはいつまでも続くはずもなく、やがてユマ・サーマン演じるガタカ社での同僚の女性と惹かれ合ううちに少しづつ偽りの生活にきしみが生じはじめる…


 極限まで絞り込んだ登場人物が織りなす人間ドラマは、人種差別をはじめとしてさまざまな問題を提起します。

 愛情とはなにか。人間の孤独とはなにか。生きるとはなにか。

 淡々と描かれてゆく怖ろしく殺風景な未来社会で、感情を押し殺した登場人物たちはそれぞれ何かを求めてゆきます。それはそのまま、この世界に対するささやかな抵抗であり、彼らの悲鳴なのかも知れません。

 ここまでお読みになってお気づきのように、この映画は差別をテーマにしています。
 それを逆に意識させるために、黒人をはじめ、アジア系などいかにも人種を意識しそうな白人以外の人種が一切出てこないのも一種のアンチテーゼですね。
 半身不随の役柄に、むしろ美形のジュード・ロウが配されたのもその辺のことがあったのでしょう。

 この映画がSFとして優れている理由に、無駄な特撮描写がないということ、未来世界を表現するのに派手なCGも特撮もほとんど使っていないことが上げられます。
 宇宙へ向かうガタカ社の宇宙船は、打ち上げられるロケットの轟音と天空へ飛んでゆく光だけ。
 しいて未来っぽいシーンがあるとすれば、だだっ広い風力発電所のような場所くらい。
 あとは現代ならどこにでもありそうな無味乾燥としたオフィス、生活感のない屋敷。ひたすらシナリオと役者の芝居でぐいぐいと物語を引っ張ってゆくのです。
 そういうつくりのお話なので、小劇団の舞台劇でも良い作品になりそうですね。

 21世紀を迎え、CGという映像革命のおかげで新作映画を目にするたび私たちはその想像を絶するビジュアルに感動しますね。
 しかし本来SFというものはイマジネーションを軸にしているのです。
 だからあまりにも映像に頼りすぎてしまって、観客に想像の余地が残されていないSFは、じつはそれだけで神秘性=SFマインドを半減させてしまいます。50年代60年代のSF映画は、予算もさることながら技術的にできなかったぶんだけシナリオの構成力にチカラがあり、おかげでセンス・オブ・ワンダーと呼ばれるSFマインドに満ちた作品が多かったように思います。

 このガタカはまさにそうした、イマジネーションあふれる正統派SFの系譜を継ぐものです。ちなみに名前の『GATTACA』というのは、グアニン、アデニン、チミン、シトシン…そう、遺伝子に必要なアミノ酸の名前をもじったものです。このへんは『2001年』のHALを連想させるSFマインドを感じさせますね。

 とはいえ、一見地味なこの映画、じつは賞だらけ。やはり観る人は観ているんですね。
 ざっと挙げてみましょうね。

アカデミー・美術賞、
ゴールデングローブ・ベストオリジナルスコア賞、
サターン・ベストオリジナルビデオリリース賞、
アメリカ美術監督組合・フューチャー・フィルム賞、

カタロニア映画祭ベストフィルム・ベストオリジナルサウンドトラック賞、
ゴールデンサテライト・アウトスタンディング・アート・ディレクション賞

ロンドン映画批評家協会・スクリーン・オブ・ザ・イヤー賞
フランスGerardmer Film Festival・ファントロフィー、スペシャルジュリプライズ賞、
パリ映画祭グランプリ、ドイツボージェイアウォード

 …など、よくぞ取りも取ったりの内容。

 余談ながら、この映画がきっかけでイーサン・ホークとユマ・サーマンはやがて結婚まで至るのですが、その後数年で破局してしまいました。

Gattaca003

 それはともかく、これほどの作品は絶対に観ないとあなたの人生、損するのは間違いありません。え、あなた、もう何回もご覧になった。それはそれは、ものすごくトクした人生ですね。
 それでは、また。

 *この記事は旧『おすすめ座シネマ』本家サイトの『ガタカ』として書いたものに改稿・加筆したものです。
 
 では、また、お逢いしましょうね。

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コメント

おはようございます♪
朝もはよからいい情報ゲットで嬉しゅうございます♪
22日夜中はガタカですね~!了解です(笑)
ガタカ大好きなんですよん♪
最小限の登場人物がいいですね
この作品で3人共好きになりました♪
セリフもカッコいいです
あと最後の最後に医者(検査員か?)が起こす行動、感涙です
でも世の中なんとなくじわじわとこの世界に近付いてきている感がしますね
怖いですね・・・どんなカタチにせよ差別はいけませんよね
しかし!「ガタカ、見たか」って・・・涙

投稿: ココ | 2005年6月11日 (土) 08:38

ココさんのブログはよく拝見しておりますが、お話ではご無沙汰いたしております。
最近はこういう、イメージでどんどん話が膨らむタイプの、ある意味“地道なSF”は少ないですね。

≫しかし!「ガタカ、見たか」って・・・涙

…そうでしょ。別な意味で感動でしょ。
(T▽T)/はっはっは。

投稿: よろ川長TOMよろ川長TOM | 2005年6月11日 (土) 10:32

ココさん、はじめまして。

私もこの作品を気に入っています。
ミーハーなのでホーク氏・ロウ氏の共演という理由でDVD鑑賞したのですが、
とても感動しました。
ビンセントの頑張りに努力することが重要だと教えられるし、
ユージーンの受けていた「金メダルで当然」というプレッシャーに複雑なものを感じました。

BS2で放映していたのですね。
知らなかったですが、嬉しいな。
私は見逃したので、改めて持っているDVDを観ようと思います。

投稿: ゆづ | 2005年6月25日 (土) 21:17

よろ川さん、こんにちは。
すみません。
先ほどの投稿、
名前を間違えて記入してしまいました。
申し訳ありません。

投稿: ゆづ | 2005年6月25日 (土) 21:19

よろ川さん、はじめまして。「ガタカ」は私も大好きな映画です。BSで放送されたのは知りませんでしたが、今日偶然自分のビデオを見直していたところなのです。
何度見てもせつなくなる隠れた傑作ですね。TBさせてくださいませ。よろしくお願いします。

投稿: 紅玉 | 2005年6月30日 (木) 00:28

コメント&TBありがとうございました
記事読ませていただきました。
僕はこの映画何度も見ていたくせに気付かなかった点があって、さすがの論評だと感服いたしました。
白人しか出てなかったですね、そういえば。
(@_@)なるほどなるほど・・・
お陰さまでまたもう一度見直したくなりました☆
(^^ゞ

投稿: mobeer | 2005年7月 4日 (月) 10:17

こんにちは。
やっとこの作品を観ることができたので
TBさせてくださいネ。

投稿: たみお | 2005年11月 7日 (月) 16:18

はじめまして!{カエル}

ガタカ、観たくて観たくて、
やっと観ることが出来ました。

期待にたがわない、名作でありました。

この作品は、
マイケル・ナイマンの音楽も素晴らしいですね。

詩的な映像も美しく、
とても10年ほども前の作品とは思えません。

佳作は朽ちず、なのですね★

投稿: wataqoo | 2006年9月 4日 (月) 15:13

こんばんは!
TB&コメントありがとうございました。

随分見るのが遅くなりましたが、、、今回鑑賞して良かったです。
人生を損してしまうところでした(笑)

『本来SFというものはイマジネーションを軸にしているのです。だからあまりにも映像に頼りすぎてしまって、観客に想像の余地が残されていないSFは、じつはそれだけで神秘性=SFマインドを半減させてしまいます』
ここの部分に凄く共感しました。
最近のSFというか映画は映像に頼り過ぎて、派手でも打ち上げ花火のように一瞬で消えてしまうような作品が多い気がします。

ガタカは、独特の世界観がしっかり確立させていて、いつまでも心に残る作品でした。

投稿: 由香 | 2008年5月28日 (水) 23:42

由香さん、いらっしゃいませ!
認証コードもめんどくさいのに、わざわざ過分なコメントまでほんとうにありがとうございました。
m(_"_)m
正直、またこういうシビれるようなSFマインド満タンのSFが作られないかな~と心待ちにしている次第です。
うぎゃーな怪物もどぱーんな乗り物ももうイイです。
これからもよろしくです!

投稿: よろ川長TOM | 2008年5月29日 (木) 01:26

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